コラム

2024/01/08

ナノマテリアルとは?特徴や応用分野、安全性とリスクを考慮した計測・測定・評価

ナノマテリアルとは?メリットや使い道、安全性とリスクを考慮した計測・評価

ナノマテリアルとは?特徴や応用分野、安全性とリスクを考慮した計測・測定・評価

ナノマテリアルは、100nm(ナノメートル)を下回る、非常に小さな粒子状の物質や構造体です。フラーレンやカーボンナノチューブといった新しい炭素系素材から、化粧品や日用品に使われる銀ナノ粒子や酸化チタンナノ粒子まで、さまざまな物質が含まれています。

ナノマテリアルは、その表面積が広く、特異な性質を持っており、さまざまな分野での応用が期待されています。しかしその一方で、研究途中の部分もあり、安全性とリスクを考慮しなければなりません。

本記事では、ナノマテリアルの特徴や応用分野、安全性とリスクを考慮した計測・測定・評価などについて解説します。

1.ナノマテリアルとは?

ナノマテリアルとは、縦・横・高さのいずれかが1nmから100nm以下の粒径を持つ素材のことを指します。粒子の大きさが小さいため、従来の材料とは異なる特性や形状を有し、さまざまな分野での利用が期待されています。

半導体性質を有する酸化チタンや酸化亜鉛のように従来からよく知られた素材でも、コロイド状に分散させてナノサイズの粒径にすると、バルクとは異なる機能を得ることができます。一方ナノマテリアルの安全性は未解明な点も多く、国際的に検討されており、慎重な対応が求められます。

ナノマテリアルは、同じ材料でも従来のバルク状材料にはない強靭性・高電気伝導性・高熱伝導性といった特性をつものがあり、医薬品や食品・食品パッケージ、化粧品・トイレタリー用品、衣料品加工といった生活に身近な製品を含むさまざまな製品領域で利用されており、その応用範囲は広がっています。今後もさらなる研究と安全性の確保が求められる分野となります。

■ナノマテリアルの大きさの目安

※1nm=10億分の1m(メートル)

ナノマテリアルの大きさの目安

参考:労働安全衛生総合研究所「作業環境中のナノマテリアルを計測する」

2.ナノマテリアルの特徴

ナノマテリアルは、表面積が広く、細胞中に侵入することが可能などの特徴を持っており、また従来の材料では実現できなかった強靭性や高い伝導性を備えることができます。そのため、蓄電デバイスや燃料電池、医療など、さまざまな分野での応用が期待されています。

ナノマテリアルはその特徴により、さまざまな分野での応用が期待されていますが、安全性については十分な注意が必要です。ナノマテリアルの利用を進めるにあたっては、リスク管理と安全対策を徹底し、社会的な信頼を築いていくことが重要です。

1)表面積が広い

ナノマテリアルの特徴の1つは、単位質量あたりの表面積が広いことです。ナノマテリアルは非常に小さな粒子や構造で構成されており、そのために大きな表面積を持つことができます。この広い表面積は、周囲との反応性や効果を高めることができます。

例えば、触媒反応の場合、反応は主に表面で起こるため、表面積が広いほど反応効率が高まります。ナノマテリアルは微細な粒子や構造で構成されているため、同じ質量の材料でも、通常の材料に比べてはるかに大きな表面積を持つことができ、同じ量の材料を使用した場合、ナノマテリアルの方がより効率的な反応を引き起こすことができます。

さらに、ナノマテリアルの広い表面積は、材料の特性にも影響を与え、表面に露出する原子や分子の割合が増えるため、材料の化学反応性や物理的特性が変化することがあります。例えば、ナノマテリアルは通常の材料よりも強度や導電性が高くなる場合があります。これは、表面積が広いことによって材料の内部と外部の相互作用が増えるためです。

このように、ナノマテリアルの特徴である広い表面積は、さまざまな分野での応用において大きな利点をもたらします。センサーや医療機器、バッテリーやコーティング剤など、多くの製品でナノマテリアルが使用されています。


2)細胞中に侵入が可能

ナノマテリアルは、非常に小さな粒子で構成される物質です。そのため、その特徴として、細胞の中に容易に侵入することが可能になります。この特性は、医療分野などでの応用が期待されています。

人間の体を構成する細胞の大きさは、通常、6〜25 μm(マイクロメートル)程度です。一方、ナノマテリアルはその1/1000ほどのさらに小さな粒子であり、細胞の内部に入り込むことができます。この特徴を利用することで、ナノマテリアルは医療技術に革新をもたらす可能性があります。

例えば、従来よりもはるかに小型のナノスケールデバイスを開発できます。これにより、体内に埋め込むことができるデバイスの侵襲性が低くなります。また、ナノスケールのデバイスは生化学的な反応時間が短いため、より効率的な治療が可能となります。

さらに、ナノメディシン(ナノテクノロジーの医学的応用)によるドラッグデリバリーも注目されています。ナノ粒子を使用したドラッグデリバリーシステムは、一般的な方法よりも高速かつ高感度であることが特徴です。薬物を効率的にカプセル化し、体内の標的部位へ送達できます。また、薬物の放出も制御できます。

これらの特徴に基づいて、ナノマテリアルは医療などさまざまな分野での応用が期待されていますが、一方で人体に与える影響について懸念があります。予測できない負の側面が発生する可能性もあるため、安全性については重要な研究課題となっています。


3.ナノマテリアルの応用分野

ナノマテリアルの応用分野は多岐にわたり、特に化粧品、家電・電気電子製品、塗料・インクなどの分野で広く使用されています。化粧品では、ナノテクノロジーを応用した美容成分が肌に浸透しやすくなり、より効果的なスキンケアが可能となります。

また、家電・電気電子製品では、ナノマテリアルを利用して高性能なデバイスやコンポーネントが開発されています。例えば、ナノ粒子を用いた高感度なセンサーや高効率な電池などがあります。

さらに、塗料・インクの分野でもナノマテリアルの応用が進んでいます。ナノ粒子を添加することで、塗料やインクの耐久性や光沢、防汚性などが向上します。また、特殊な光学特性を持つナノ粒子を使用することで、新しい色や効果を実現することも可能です。

ナノマテリアルの主要な素材としては、二酸化チタン、シリカ、ナノクレイなどがあり、これらの素材は、化粧品や塗料・インクなどの製品に広く使用されています。また、ナノマテリアルの使用量は素材によって異なりますが、カーボンブラック、シリカ、二酸化チタン、ニッケルなどは年間1,000トン以上使用されていると推測されています。

炭素系素材であるカーボンナノ材料(ボール状のフラーレン、一次元のカーボンナノチューブ、二次元のグラフェンなど)は、バッテリー、センサー、電極など、エレクトロニクス製造やエネルギー分野で、その市場規模を拡大させています。各素材のユニークな特性と、化学的・熱的な高い安定性で、次世代の半導体デバイスを支える基幹材料としても注目されています。

さらに、ナノテクノロジーはライフサイエンス分野でも注目されています。特に蛍光ナノプローブの開発により、生命の小宇宙を観察することが可能となりました。蛍光顕微鏡を用いることで、生物の微細な構造や機能を観察できます。この技術は、生命科学の研究や医療分野において重要な役割を果たしています。

参考:厚生労働省「ナノマテリアルについて」


4.ナノマテリアルの安全性とリスクを考慮した計測と評価

2000年ごろから「ナノテクノロジー」という言葉がよく使われるようになり、生活を豊かで快適にするための技術革新の1つとして注目されています。ナノテクノロジーとは、物質をナノメートルサイズ(1〜100 nm)で制御する技術のことであり、その成果の1つとして、ナノスケールの物質やナノマテリアルが開発されました。

現在では、ナノマテリアルは種々の産業で既に使用されており、将来的にはさらに増えると予想されています。これらの技術の利用は、生活の質を向上させるためには必要ですが、使い方によっては悪影響を伴う可能性があるため、作業環境においてナノマテリアルの濃度測定を行うなどの安全性を確認する研究が重要となります。


1)ナノマテリアルの安全性とリスク

ナノマテリアルは、その特性から、従来のバルク状物質とは異なる振る舞いや効果を持つことがあります。

性質が変化するのであれば、物質などに与える影響と同じように、人間や動植物などさまざまなものに、通常とは違う悪影響を与える可能性があります。そのため、ナノマテリアルの安全性とリスクについての測定や評価が重要となります。

安全性の評価は、ナノマテリアルの特性や影響を科学的に理解し、環境や人体への潜在的なリスクを計測することが含まれます。さまざまな試験や研究を通じて、ナノマテリアルの毒性や生体への影響を明らかにし、安全な使用や取り扱い方法を確立する必要があります。

また、リスクの評価には、ナノマテリアルの特性に基づいて、その使用や放出による環境への悪影響や人体への健康リスクを予測することが含まれます。リスク評価を行い、使用場所や使用量、曝露経路などを考慮し、適切なリスク管理対策を策定する必要があります。


2)ナノマテリアルの計測と評価

ナノマテリアルの計測と評価は、その特性や振る舞いを正確に把握するために重要です。ナノマテリアルの計測には、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などの高度な計測技術が使用されます。これによって、ナノマテリアルの粒子サイズや形状、表面特性などを詳細に観察できます。

関連製品:分子間相互作用解析装置 “QCM-D”

関連製品:AFM, SPM

また、ナノマテリアルの評価には、その物理的・化学的特性や生体への影響を計測するさまざまな方法があります。毒性試験や生物学的評価、環境影響評価などが行われ、ナノマテリアルの安全性やリスクを把握するための情報が収集されます。

ナノマテリアルの安全性とリスクを考慮した計測と評価は、適切なリスク管理や安全な使用のために欠かせない要素です。科学的な研究や試験を通じて、より安全なナノマテリアルの開発や利用が進められることで、持続可能な社会の実現に寄与することが期待されます。


3)作業環境中のナノマテリアル濃度測定の課題

安全性の確認に伴う、作業環境中のナノマテリアル濃度の調査・計測には、いくつかの課題があります。その中でも、特に課題となるのがナノマテリアルの凝集作用です。工業用ナノマテリアルはもともと1~100 nmの材料であり、物質が有する性質やサイズが事前に分かっています。

しかし、粒子が小さいため、凝集作用が働いてしまい、処理時にはナノサイズだった材料が凝集し、大きな粒子を形成します。その結果、もともとのナノサイズからミクロンサイズまで拡大してしまいます。

そのため、非常に広範なサイズの粒子を計測する必要があり、1つの装置でこれらの範囲をカバーすることはできないため、複数の装置を組み合わせて計測を行う必要があります。

関連製品:ナノ粒子分散塗布サンプル・プレパレーション装置 “PSD-PS01”

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