コラム

2023/09/01

レーザーの「光周波数」と「パルス周波数」

レーザーの「光周波数」と「パルス周波数」

レーザーや光機器を用いるシーンでは、「周波数」が重要です。レーザーの特徴を表現する際に用いられる「周波数」には、波長に対応する「光周波数」と、パルス発振の特徴を表す「パルス周波数(パルスレーザーの繰返し周波数)」の2種類があります。同じ「周波数」でも意味は全く異なりますので、それぞれを整理して正確に理解しましょう。

光の色を表す「光周波数」

光は波動であり、その波の特徴を示す指標として「周波数」が使われます。光の周波数は、単位時間当たりに波が繰り返される回数を表し、光の色にも関連しています。

可視光線の色は、「波長」によって変化し、波長が短いほど光は紫色に近くなり、波長が長いほど光は赤色に近くなります。そして、波長ごとに色が「紫・藍・青・緑・黄・橙・赤」などの順に移り変わっていきます。

1)光の「周波数」と「波長」

光は電磁波の一種であり、私たちの日常生活において欠かせない存在です。光にはさまざまな色がありますが、その色は波長や周波数によって決まります。

まず、波長は、波の1周期の長さであり、山と山または谷と谷の間隔を指します。光の波長は、長いものから短いものまでさまざまあり、前述のとおり赤色の波長は比較的長く、紫色の波長は比較的短くなります。

次に、光の周波数は、1秒間に光が何回振動するか(波の数)を表す数値であり、ヘルツ(Hz)という単位で表されます。例えば、1秒間に10回振動する光の周波数は10Hzとなります。光の周波数が高いほど、1秒間に振動する回数が多くなります。光の周波数も、波長と同様にさまざまな値が存在し、赤色の光の周波数は比較的低く、紫色の光の周波数は比較的高くなります。

光の波長と周波数には以下の関係があり、「波長をλ(m)・光の速度をc(m/s)・周波数をf(Hz)」とすると、「λ = c / f」という式が成り立ちます。つまり、波長と周波数は反比例の関係にあり、波長が長いほど、周波数は低くなります。

波長λ(m)=光の速度c(m/s)÷周波数f(Hz)



2)光の特性を表現する「周波数」:レーザー線幅

光の特性を表現する「周波数」は、レーザー線幅という概念を使って説明されます。レーザー線幅は、通常FWHM(半値全幅, Full Width at Half Maximum)という値で表されます。レーザーの半値全幅とは、レーザースペクトルの幅を示すものです。単一波長のレーザーの出力光は、代表的な波長値(中心波長)で表記されますが、実際にはスペクトルに広がりを持っており、これを「レーザー線幅」と呼びます。レーザースペクトルが、ガウス分布と呼ばれる山形の形状をもつとき、山のピークの前後で、極大値の半分の値を示す位置(波長)の差が、レーザー線幅のFWHMです。

レーザー線幅の単位は、「波長差表示」の場合にはnmやpmなどを使用し、「周波数差表示」の場合にはkHz、MHz、GHzなどが使用されます。線幅が狭い場合には、「周波数差表示」がしばしば使われます。線幅が狭くなると、波長差表示では小数点以下の桁数が大きくなります。周波数差表示の方が、より線幅を細かい数値まで把握しやすくなるわけです。

3)長さ、時間のものさしで用いられる「周波数」:周波数標準

「周波数」とは、長さや時間の基準として使われるものです。「周波数標準」とは、周波数および時間の標準となるものであり、一方が決まれば他方も決まります。

以前は、地球の公転運動などの周期を用いて周波数標準を求めていましたが、天体運動のゆらぎにより正確な値を得ることができませんでした。しかし、現在では高精度な計測技術が発展しており、より正確な周波数標準を得ることができます。

長さや時間の基準には、原子・分子、これらのイオンの共鳴周波数が利用されています。例えば1秒の長さは、セシウム原子の共鳴周波数で定義されています。

このような原子時計よりもさらに高精度な時計として、光格子時計がありますが、これも非常に高精度な周波数計測技術に基づいています。2020年に東京大学と理化学研究所がスカイツリーで行った、一般相対性理論の検証にも、小型化に成功した光格子時計が使われました。 さらに、周波数を高精度に伝送する技術開発も進んでいます。NTTなどのグループは、光格子時計を次世代通信インフラとして利用するネットワーク構想を考案しており、光による高度な周波数標準が、私たちの日常生活においてもさまざまな場面で恩恵を与えるかもしれません。

4)新しい光周波数領域:テラヘルツ

テラヘルツ領域は、その「ヘルツ」という言葉の通り、周波数を用います。テラ(T)は10の12乗で、1THzは1×10^12Hzと表示されます。テラヘルツ波は、現在携帯電話で使われている電波の1,000倍くらい高い周波数に当たります。

このように高い周波数になりますと、電波と光の両方の性質を同時に持つようになります。電波は物を透過する性質を持ち、光はレーザー光線のように直進する性質を持ちます。テラヘルツ波は、これら両方の良い性質を併せ持つ、とても役に立つ光なのです。

テラヘルツの光は、そのエネルギーの特性から見ると、一般的に人体の温度に近いエネルギーを持っています。したがって、生体関連物質である体内の大きな分子や遺伝子などの分析に適した手法となる可能性があります。さらに、レントゲン撮影で使用されるX線やガンマ線などの放射線とは異なり、人体に負荷をかけない、安全な光と考えられており、危険物や隠匿物の非破壊検知といった保安ツール開発への応用が期待されます。また長距離伝送に関する課題などの解決が進み、大容量の高速無線通信への応用も開発されています。

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レーザー発振の速さを表す「パルス周波数」

パルス周波数とは、レーザーがパルス状の出力を繰り返し発振する速さを表すものです。パルス周波数が高いほど、レーザーはより速くパルスを発振します。これまで説明してきた「光周波数」とは全く異なりますので、注意してください。

1)繰返し周波数とパルス幅

パルスレーザーは、一定の繰返し周波数で、光がパルス状に出力されるレーザーです。パルスレーザーの出力は、下記の式で表せます。

平均出力[W]=パルスエネルギー[J]×繰り返し周波数[Hz]  
ピーク出力[W]=パルスエネルギー[J]÷パルス幅[s]



上記式のとおり、パルス周波数は、繰返し周波数とパルス幅という2つの要素で表されます。まず、繰返し周波数とは、レーザーが1秒間に発するパルスの回数を指します。つまり、レーザーが、どれだけ速く連続してパルスを発するかを表す指標です。例えば、繰返し周波数10Hzのパルスレーザーは、1秒間に10個の光パルスを発振します。繰返し周波数が高いほど、レーザーの発振は速くなります。 次に、パルス幅とは、レーザーの持続時間を指します。つまり、1つのパルスがどれだけの時間続くかを表す指標です。繰返し周波数を大きくした場合、パルス幅が十分に狭くないと、パルス同士の重なりが生じてしまいます。従って、クリアな光パルスを得るため、高速発振のレーザーでは、パルス幅は短くなります。

2)超高速レーザー:高繰り返し周波数と短パルス

超高速レーザーは、非常に短いパルス幅を持つレーザーのことを指し、これには「ピコ秒レーザー・フェムト秒レーザー・アト秒レーザー」などがあります。これらのレーザーは、非常に高い繰り返し周波数を持っており、MHz(メガヘルツ)からGHz(ギガヘルツ)そしてTHz(テラヘルツ)までの周波数帯域で動作します。

「ピコ秒は1兆分の1秒」「フェムト秒は1,000兆分の1秒」「アト秒は10京分の1秒」のパルス幅が極めて短いレーザーとなります。

このような非常に短いパルス幅を持つレーザーは、物質の超高速加工や超高速物理現象の研究に非常に有用です。例えば、物質の光励起や光解離、電子の運動など、非常に短い時間で起こる、物理現象の観測や解明に役立ちます。さらに、超高速レーザーを用いた実験は、物質の特性や反応の理解に寄与し、新たな物理学的知見を提供することが期待されています。

3)パルス周波数の制御

パルス周波数の制御は、下記の4つの方法に分けることができます。

①直接変調法

半導体レーザーの電流をオンオフすることで、パルス光を生成できます。この方法によって、パルスの波形を制御することが可能で、熱影響を極力抑えたい穴あけ加工や光通信などに利用されています。

②外部変調法

CWレーザーのビーム出力を、オンとオフを制御することで、パルス光を生成します。オンオフには、変調器または光チョッパーを使用します。光チョッパーは、ホイールを回転させて連続光をメカニカルに遮断するものです。HzからkHzの繰返し周波数を、比較的容易に作ることができます。変調器には、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)があります。光チョッパーよりもはるかに高額ですが、GHzレベルまでの高速変調が可能です。

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③Qスイッチ法

Qスイッチパルス発振はレーザー媒質中で十分に反転分布が起こるまで待ち、一気にレーザーを発振させることで、非常に大きなエネルギーのレーザー光を等間隔で発することができます。また、パルス幅はμs~ns程度です。これは、電子部品や半導体部品のような精密部品のマイクロ加工、穴加工、溝加工、マーキングなどに応用されています。

④モード同期法(モードロック法)

与える変調の周期をレーザー共振器内の光周回時間に合わせると、モード同期が実現します。パルス幅はps~fsの範囲であり、最も短いパルス幅を得ることができます。

通常、パルスエネルギーはQスイッチ法ほど大きくありません。繰り返し周波数は共振器長によって決まり、共振器長が短いほど高い繰り返し周波数が得られます。この技術は非加熱加工や非線形光学分野、テラヘルツ光やスーパーコンティニューム光源の種光として利用されます。

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