コラム

2023/11/16

半導体レーザー。抜群の汎用性と使いやすさで、産業、科学、一般生活に幅広く貢献

半導体レーザー。抜群の汎用性と使いやすさで、産業、科学、一般生活に幅広く貢献。

半導体レーザー(LD:レーザーダイオード)は、小型で取り扱いが容易なレーザー光源です。電気から光への変換効率が50%から70%程、他のレーザーと比べて圧倒的に高いのが特徴です。

1.そもそも半導体ってなに?

半導体とは、シリコン等の半導体材料で作られた電子部品の総称であり、最大の特徴としては不純物の添加により電気抵抗が絶縁体から導体に近い状態に変化し、絶縁体と導体の中間の性質を持つ材料で電気抵抗が広範囲で変化する集積回路(IC, LSI)です。半導体の製造工程は、前工程(ウェハプロセス)と後工程(組立・実装)から成り立っています。

2.半導体の歴史

人類が初めて電気に接したのは1800年代。1895年にはナイアガラの水力発電が開始されました。これと同時期の1897年には、電子が発見されます。その後、米国で“トランジスタの父”と呼ばれたベル研究所のケリー所長により、1947年に点接触トランジスタ、1949年には接合型トランジスタが相次いで発表されました。

日本では1940年代後半に東北大学の渡辺寧氏によって、半導体の情報がベル研からいち早くもたらされました。東北大学ではその後、1950年代当初のpinダイオードの発明や静電誘導トランジスタ等で“ミスター半導体”と呼ばれた西澤潤一を輩出し、WE(Western Electric)から特許使用許可を取得して携帯ラジオに適用した純国産点接触トランジスタが試作されました。続いて接合型トランジスタの試作にも成功し、日本で最初のトランジスタが誕生します。

トランジスタの量産化により世界中に普及したのがトランジスタラジオです。ラジオのほか、電気蓄音機や補聴器にも応用されました。半導体材料はその後次々と次世代の研究者に引き継がれ、技術立国日本の「もの作り」文化の礎となりました。

現在ではさらに、パソコンやスマートフォン等の情報社会、電気機器や産業機器分野で不可欠な電子部品として、半導体が活躍しています。

3.半導体の構成

半導体素子は、ある電圧以上を加えないと電流が流れない性質をもち、電流を流すには電位の閾値を超える必要があります。この閾値は素子の材料により異なります。

半導体材料には、エネルギーギャップ(以下Eg)の大きな素材が使われています。半導体をレーザー素子として使用する場合、Egが大きいほど短い波長を発振します。(*λ=1240/Eg)。エネルギーギャップまたはバンドギャップとは、電子が存在できない領域(禁制帯の幅)を指します。

半導体チップとは、シリコンウェハ上に数千~数億個の転写された賽の目の一区画であり半導体集積回路です。製造工程ではペレットとも呼ばれています。シリコンウェハは、チョコラルスキー法(回転引き上げ法)等で結晶化したシリコン単結晶のインゴットをスライスした基板で、主なサイズは200mm径や300mm径です。半導体材料の上にステッパー(縮小投影型露光装置)でフォトマスク原画を縮小投影しながら一区画ずつステップ&リピートで繰り返し露光して製造されます。

半導体パッケージとはこのチップを機能する形に小型軽量一体化したものです。電力や電気信号の入出力を行う半田ボールやリードフレームを、金属・プラスチック・セラミック製ケースにパッケージングします。

さらに半導体システムは、デジタル回路、メモリ回路、アナログ回路およびソフトウェア等異なる機能が混載されたLSI等の大規模集積回路です。

4.LDとLEDの違い

LD(Laser Diode 半導体レーザー)とLED(Light Emitting Diode 発光ダイオード)は、よく似た半導体材料からできており、半導体としての基本構造は同じです。ただし、半導体レーザー(LD)は、誘導放出を起こす光共振器を持ち、高い指向性と狭帯域のスペクトル、高コヒーレンス性といったレーザー特有の特徴を持つ一方、発光ダイオード(LED)は自然放出のみで、低指向性と広帯域のスペクトル、低コヒーレンス性であるという違いがあります。

LD(Laser Diode 半導体レーザー)は、電気エネルギーを光共振器構造でより指向性の高いレーザー光を放射する半導体素子です。単色光で、半導体材料により紫外から赤外光の各種波長のレーザー光を放射します。

LED(Light Emitting Diode 発光ダイオード)は、電気エネルギーを光エネルギーに変換するpn構造の半導体素子で、RGB(赤・緑・青)を含む紫外から赤外光を放射します。歴史的に、赤色光付近の単色光LEDが実用化されてきましたが、1993年に青色LEDが、1997年に様々な波長を同時に含む白色LEDが誕生しています。

5.半導体レーザーの種類

多種類の半導体材料の出現によって、半導体レーザーのみで紫外から赤外の広い範囲にわたるさまざまな波長が発振できるようになり、活用の場が拡大しています。

一般的な半導体レーザーの構造は、ファイバレーザーの構造と同様に、コア層とクラッド層(n型&P型クラッド層が活性層を挟むダブルヘテロ構造)を接合し、活性層端面の反射鏡からレーザーを放射します。

半導体の端面に接合した2枚の反射鏡からレーザーを放射するものは、端面発光型半導体レーザーと呼ばれます。

また面発光型半導体レーザーは、半導体の活性層が上下に挟まれており、上面からレーザーを放射します。面発光型半導体レーザーのうち、ウェハ表面に垂直な方向に放射する半導体レーザーは、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser 垂直共振型面発光レーザー)と分類されます。レーザー出力はmW領域のため、2Dアレイを共通の半導体チップ上に製造すれば数W~数百W領域の高出力発光が実現するなど、高出力用途に活用されます。近年、VECSEL(Vertical External Cavity Surface Emitting Laser垂直外部共振型面発光レーザー)等の外部共振器構造の大出力レーザーも登場しています。

このほか、DFB(Distributed Feedback Laser 分布帰還型レーザー)は、共振器内部に回折格子構造をもち、縦モードが単一周波数のレーザーです。長距離光通信や、センシングなどに用いられます。

6.半導体レーザーの素材と主な波長や用途

半導体レーザーは、小型で軽量、また取り扱いが容易です。高速応答や高速変調といった機能面でも、他のレーザー比べ汎用性と利便性に優れており、多くの用途でさまざまな半導体レーザーが使用されています。

 以下に、代表的な半導体材料の波長と主な用途を、参考として記載します。

素材波長用途例
InGaP/GaN/SiC380nm/405nm/450nm/470nmデータストレージ、BDプレーヤー(GaN 375nm/405nm)
AlGaInP/GaAs635nm/650nm/670nmレーザープリンタ、DVDプレーヤー(AlGaInP 635nm~650nm帯)
AlGaAs/GaAs720nm~850nmCDプレーヤー(AlGaAs 780nm帯)、レーザープリンタ、固体レーザー励起
InGaAs/GaAs900nm~1100nmEDFA(Erbium-doped Fiber Amplifier エルビウム添加ファイバアンプ)等のファイバ増幅器やVECSEL(Vertical External Cavity Surface Emitting Laser 垂直外部共振型面発光レーザー)の励起用
InGaAsP/InP1.2μm~2.0μm光ファイバ通信、センシング、分光
AlGaAsSb/GaSb1.8μm~3.4μm防衛、センシング、分光

*半導体材料の開発の歴史:1960年代 GaAs 885nm、GaP 549nm~700nm。1970~80年代 InGaAsP 539nm~653nm、AlGaAs 780nm~、AlGaInP 635nm~650nm。1990年代 ZnSe、GaN。

7.半導体レーザーの利点と欠点

半導体レーザーは、小型、軽量、長寿命です。また電気を直接光に変換できるため、変換効率に優れており、消費電力も低く抑えられます。取り扱いは比較的簡単で、電源をONにするだけですぐにレーザー発振できます。

一方、半導体レーザーの発振には、適切な熱対策が必要です。特に高速スイッチング動作では、発熱量が増え、効率的な放熱を図る必要があります。また、静電気に弱く、手や人体等に触れると破壊される場合があります。

半導体レーザーの発光材料は、発光ダイオードとよく似ていますが、半導体素子のエネルギーギャップ(Eg)に意味があります。p型n型半導体を接合させた構造をもつため、電流を一方向に流す働きがあり、電流増幅や高速スイッチング機能が得られます。半導体材料の組成を変えることで、多彩な色・波長が発振できますが、いずれもエネルギーギャップ(Eg)の大きな半導体素子で、波長・出力の仕様には欠かせない要素の一つです。

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