時間分解分光による半導体材料評価

PicoQuant

半導体の電荷キャリアダイナミクスはウェハ材料の性質と品質を直接反映します。この特性を明らかにするため、光励起された電子と正孔の拡散長の正確かつ効率的な測定することが不可欠です。これには時間分解フォトルミネッセンス消光実験、すなわち時間相関単一光子計数(TCSPC)による時間分解フォトルミネッセンス(TRPL)が有効です。PicoQuant社の分光計 FluoTime 300や、励起光源としてTaiko PDL M1 レーザードライバ駆動のピコ秒パルスレーザーにより、電荷キャリアダイナミクスに影響を与える現象を最短サブナノ秒の時間スケールで直接分析できます。

半導体の電荷キャリアダイナミクスは、それぞれのデバイスの構成と機能によって決定されます。また半導体光物理学におけるこれらのパラメータは、ウェハ材料の性質と品質を直接反映するもので、理解することは非常に重要です。これらシステムの特性を明らかにするには、光励起された電子と正孔の拡散長を、正確かつ効率的に測定することが不可欠です。この拡散長の決定に、時間分解フォトルミネッセンス消光実験が有効です。
 
特定のクラスの半導体の場合、特徴的な電荷キャリアの寿命は、関係する材料と界面の性質と寸法に大きく依存します。さらに、増感剤の表面効果、不動態化、エネルギー伝達効率、ならびにドーパント、不純物、および欠陥部位の存在も、観察される寿命に大きな変動をもたらす可能性があります。
 
半導体のフォトルミネッセンス挙動は、電荷キャリアダイナミクスを直接モニタするものです。すなわち時間相関単一光子計数(TCSPC)による時間分解フォトルミネッセンス(TRPL)は、電荷キャリアダイナミクスに影響を与える現象の分析に好適で、特定のシステム内で発生する現象を最短サブナノ秒の時間スケールで直接分析できます。

半導体電荷キャリアダイナミクス研究のための時間分解光測定セットアップ

半導体の高速電荷キャリアダイナミクスの研究には、さまざまなタイプのセットアップがあります。セットアップは、スペクトロメータ、共焦点顕微鏡、またはスペクトロメータと顕微鏡両方の組み合わせという3つの大きなカテゴリに分類できます。
 
一般的に測定は、パルス光源で半導体を励起することからスタートします。放出された信号は、フィルタやモノクロメータで励起光と分離され、単一光子検出器によって収集された後、時間相関単一光子計数(TCSPC)ユニットで処理されます。
 
前述のセットアップタイプの主な違いは、収集可能な付加的情報にあります。良好なモノクロメータを使用した場合、スペクトロメータであればより高いスペクトル分解能を、顕微鏡は優れた空間分解能を提供します。両方を結合したシステムでは、サンプルから時間、スペクトル、および空間情報を収集して、両デバイスの測定において高い性能を得ることができます。
 
半導体ダイナミクスの研究に適したセットアップを構成する主要なコンポーネントは以下の通りです。(「関連情報」タブで、半導体材料研究の推奨システムやコンポーネントをご紹介しています。)
 

  • パルス励起源(ダイオードレーザー、LED、多光子励起システム)
  • 発光シグナルを励起光から分離する手段(モノクロメータまたはフィルタ)
  • 単一光子検出器
  • ライフタイムデータを処理するTCSPCユニット

CIGSベース太陽電池のフォトルミネッセンスの研究


この例は、銅インジウムゲルマニウムジセレニド(CIGS)ベースの太陽電池について、定常状態と時間分解スペクトルを測定したものです。この太陽電池は、Moをバックコンタクトとして、1.5µm厚のCIGS層、50nm厚のCdSeバッファ層、150nm厚のiZnO層と、これらを300nm厚のITOコンタクトで覆ったスタックとして構築されています。上部の接点の上には、銀色のグリッドが重ねられています。定常状態の発光スペクトルとフォトルミネッセンスの減衰は、2つのスポットで計測されました。スポットの1つは銀のグリッド線に近く、もう1つは2つの線のほぼ中間です。

定常状態および時間分解計測データは、FluoMicアドオンと励起用の560nm ピコ秒パルスレーザー光源を備えたFluoTime300 スペクトロメータを使用して測定されました。サンプルは、20倍または40倍の対物レンズで観察されました。20倍の対物レンズでは、励起スポットサイズ 約60 µm、検出エリア 約10 µmで、40倍の対物レンズの場合には、それぞれ約30µm(励起)、約5 µm(検出)です。
 
右図はCIGSベース太陽電池から測定された発光減衰曲線で、上はスポット1、下はスポット2です。発光スペクトルは両スポットとも、1250nmに最大値を持ち、対物レンズの変化の影響を受けない、広く特徴のないバンドです。しかし1250nmで記録された発光減衰スペクトルは、対物レンズの変化に大きく影響を受けます。この違いは、平均寿命が非常に短いことに加え、減衰曲線の形状が大幅に変化するスポット2ではさらに顕著になります。

LEDディスプレイのピクセル検査


この例では、通常のスマートフォンをOlympus BX43直立顕微鏡のステージに配置し、FluoTime 300用アドオンのFluoMicを使用して、ディスプレイ上の各ピクセルから、定常状態と時間分解の測定データを取得しました。この顕微鏡ステージは、かなり大きなものや、変わった形状のオブジェクトにも対応できます。
 
顕微鏡ステージを使用して、ディスプレイの白い部分を20倍の対物レンズの焦点に移動します。次に、検出スポットを青、緑、または赤のピクセルに移動し、それぞれ対応する発光スペクトルと発光減衰曲線を取得しました。サンプルは、PicoQuant社の440nm ピコ秒パルスダイオードレーザーで励起しました。発光減衰は、青ピクセルで460nm、緑で522 nm、赤では620nmでそれぞれ取得しました。なお赤色ピクセルのルミネッセンス測定において、レーザーはバーストモード(有効繰返し周波数 100 kHz、バースト長 500 ns)で動作しています。


 

ペロブスカイト太陽電池における電子正孔拡散長の決定


この例は、電子(青)または正孔(赤)のクエンチング層、またはPMMAコーティング(黒)の存在下において、ハロゲン化物と三ヨウ化物の有機金属ペロブスカイト混合層から得られたデータを示しています。減衰曲線は、両方の材料のピーク発光に対応する780nmで取得されました。測定された減衰ダイナミクスは拡散モデルに適合でき、拡散長を導き出すことができます。この測定から、混合ハロゲン化物ペロブスカイトの電子と正孔の拡散長が 1μmだったのに対し、三ヨウ化物材料は 100nmというはるかに短くなっており、これら材料の太陽電池としての性能と、高い相関が得られました。

GaAsP量子井戸システムのTRPL


右図は595nmで励起した後、蛍光寿命スペクトロメータで測定した量子井戸構造の過渡TRPLスペクトルで、(a)量子井戸のレイヤ構造、(b)ウェハからの時間分解発光スペクトル(TRES)を示します。650 nmでの発光ピークはAl0.4Ga0.6Asバリアによるもので、735 nm付近のバンドはGaAsP量子井戸、860nm付近のピークはn-GaAs層とGaAs基板に由来します。各スペクトルチャネルについて記録された減衰は、3成分指数モデルで適切に説明することができます。ここではフィッティングした平均寿命と最長成分のみを示しています。この測定は、多成分系の材料固有のスペクトルチャネルにおける特徴的な電荷キャリアダイナミクスの相関関係を例示するものです。

続いての図は、異なる3つの波長で測定した励起スペクトルです。1つ目は650nmでAl0.4Ga0.6Asバリア(青)のピークに対応、2つ目の735nmは量子井戸層(薄緑色)、3番目の860nmはn-GaAs層とGaAs基板(濃い緑色)と相関します。量子井戸層のスペクトルにおいて、650 nm付近にみられる顕著な強度低下は、バリア層との相互作用を示しています。 一方n-GaAs層とGaAs基板は、650 nm付近で強度が増加します。これは、バリアバンドギャップよりも長波長側にあるバリアの吸収端と相関関係があります。図中の長方形は、対応するレイヤのバンドギャップを示しています。

CdTe多結晶ウェハ表面


塩化物化合物による熱活性化の前後で、CdTe多結晶ウェハ表面を共焦点顕微鏡でスキャンしました。それぞれの強度画像(a)および(b)、処理前後のライフタイムイメージング(d)および(e)は、活性化後の強度およびフォトルミネッセンス寿命の有意な増加を示しています。画像全体にわたる強度(c)と寿命(f)の統計的分布を、アクティブ化の前(青)と後(緑)に示しています。測定時間わずか3ms/pixelで、平均寿命の特徴的な変化と、CdTe構造のさまざまな領域における寿命の大幅な変化を判断できます。

FluoTime 300 完全自動化 高性能蛍光寿命スペクトロメータ


FluoTime 300 “EasyTau”は、定常状態や燐光計測のオプションを備えた、完全自動化の高性能な蛍光寿命分光計です。300psまでの蛍光減衰時間を測定できます。時間相関単一光子計数(TCSPC)またはマルチチャネルスケーリング(MCS)による蛍光減衰測定のための光学系とエレクトロニクスが全て搭載されています。光源はピコ秒パルスLD/LED、またはキセノンランプで使用するように設計されています。複数の検出器オプションにより、幅広いシステム構成が可能です。
 
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Taiko PDL M1 高性能&高精度 ピコ秒ダイオードレーザードライバ


PicoQuant社のピコ秒レーザー/LED光源は、ユニバーサル・レーザードライバと専用LD/LEDヘッドで構成されます。いずれのドライバでも、取り付けたヘッドの繰返し周波数とパルスエネルギーを制御できます。
PicoQuant社レーザードライバの最高機種であるTaiko PDL M1は、パルス、バースト、CW動作について、レーザーパラメータを手動またはコンピュータで制御できます。専用のピコ秒レーザーヘッド LDH-Iシリーズは、375~1550 nm もの広い波長域から選択でき、最短パルス幅 20ps (FWHM)、最大平均出力 200mW、繰返し周波数はシングルショットから100MHzまでです。
Taiko PDL M1は、多彩なレーザーパラメータを高精度に制御・出力でき、半導体材料評価のための高品質で正確な蛍光寿命測定に最適です。
 
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