原子のレーザーマニピュレーションによる量子慣性センサの製作

NKT Photonics

NKT Photonics社のKoherasシリーズ 単一周波数ファイバレーザーは、バーミンガム大学で開発された世界で最もポータブルな量子重力偏差計において重要な要素です。原子操作の要件である、高速周波数変調、狭線幅、低ノイズを高いレベルで提供します。

バーミンガム大学のグラジオメータチームによって、世界で最もポータブルな量子重力偏差計が開発されました。NKT Photonics社 Koherasシリーズのような小型で堅牢なファイバレーザーは、このコンパクトな量子装置の作成において重要な要素です。
 

 
過去20年間におよぶ原子操作技術の進歩により、物質の量子特性を利用した正確な慣性センサの作成が可能になりました。量子慣性センサによって、絶対重力分析において最高の感度を達成できます。量子センサには非常に正確な測定のため、クロックが内蔵されています。他にも、図1に示すように、回転、加速、磁場、光などを非常に正確に測定できる量子センサがあります。
 


図1: UK Quantum Technology Hub Sensors and Timingにより開発された量子センサーのロードマップと市場規模

 
量子計器は、以下のレシピに沿って構築されます。

  • センサヘッド:分析する原子が保持される極高真空環境に設置
  • 磁場環境:コイルと磁気シールドで構成され、原子に適用する磁場を制御する
  • レーザーシステム:様々なステップを経て、原子を冷却・操作する
  • マイクロ波チェーン:レーザーシステムに必要な周波数を生成する
  • コントローラ:シーケンスを定義してデータを収集する

 
 

量子重力グラジオメータを利用した密度変動の測定

重力グラジオメータを用いて、重力の勾配を測定し、地下密度の異常をマッピングできます。この方法で重力と同じ情報が得られます。これにより重力と同じ情報が得られ、長距離では信号が少なくなりますが、密度の変動に対する感度が高くなります。
 
この測定を実行するにはまず、図2に示すように、2つの異なる冷却原子雲の垂直加速度を、同じレーザーで同時に計測します。これにより、2つの原子雲間のコモンモードノイズを抑制できます。その結果グラジオメータは、車載などノイズの多い環境下でも測定を行えます。様々な環境下における高い性能とコモンモードノイズ抑制が実証されたことで、量子重量グラジオメータの産業分野での転用が期待されます。
 


図2:量子重力グラジオメータの計測シミュレーション。左図:空間的に分離された2つの原子雲が、量子力学的な重ね合わせ状態に配置され、同じレーザービームによって再結合されます。右図:A)振動のない各原子雲の重力フリンジの計測例 B)振動ありでの計測 C)両ケースの重力勾配楕円の重ね合わせ。この構成で、振動などのコモンモードノイズが抑制されることが示されています。

 
バーミンガム大学は、UK Quantum Technology Hub for Sensors and Timingを主導し、産業界との79もの共同プロジェクトを開発しました。これは132の発明件数と6,200万ポンドのプロジェクト価値に相当するものです。チームの主な目標の1つは、産業開発に適した技術的要素をもつ、コンパクトなフィールド向け量子重力グラジオメータの開発です。
 
 

原子干渉のための、高速周波数変調、狭線幅、低ノイズの必要性

バーミンガム大学で開発された量子重力グラジオメータは、ルビジウム87同位体の冷却原子を用います。108個の原子から成る原子雲が、レーザービームで冷却され、トラップされます。原子雲の冷却は複数のステップから成り、最初は磁気光学トラップ、続いて光モラセスで4μKまで冷却します。原子の冷却のため、レーザー周波数は原子遷移よりもわずかに長波長側へ調整します。
 
測定にあたっては、垂直にアライメントしたレーザービームで、原子を量子重ね合わせ状態にします。続いて時間経過に伴う変化の後に、数μsのレーザーパルスで再結合します。
 
干渉計の出力状態は、蛍光として測定され、自由落下する原子の加速で引き起こされるドップラーシフト変化を補正する、レーザー周波数のチャーピング性能に依存します。
 
レーザー周波数は安定化させることが必要なため、シード光のNKT Photonics社 Koheras BASIK E15は、分光セルを使用してルビジウムの遷移線にロックされます。レーザーの強度、線幅、周波数は、干渉計の位相に直接影響するため、できるだけ低ノイズのレーザーが必要です。
 
バーミンガム大学開発の量子重力偏差計にはさらに、高速周波数変調(1ミリ秒当たり100 MHz)、狭線幅(1 kHz)、低い位相ノイズと相関強度ノイズが要件となります。また原子遷移効率が偏光に依存するため、高い偏光消光比が求められます。


図3:フィールド向けグラジオメータ。左図は深さ4m、直径2mのトンネルに対応する重力勾配データのシミュレーション。右図はバーミンガム大学で現在開発中のフィールドアプリケーション用の冷却原子重力グラジオメータ。

 
NKT Photonics社のKoherasシリーズ ファイバレーザーは、ファイバSHG通信技術をベースとしており、小型、堅牢、ポータブルです。周波数は、EOM(電気光学変調器)やIQM(同相/直交変調器)で変調できます。最大光出力は 2W(Koheras BOOSTIK)、AOM(音響光学変調器)による出力のオン/オフスイッチが可能です。波長は1560 nmからSHG 780 nmへ波長変換できます。
 
バーミンガム大学では、移動光格子など最新の原子冷却ツールも使用しています。Koheras HARMONIK ハイパワー SHG出力(755-780nm) 単一周波数ファイバレーザーなど、大きな運動量遷移を伴う原子研究に最適な方法を、常に模索しています。
 
 

アプリケーションを多様化する小型システム

バーミンガム大学による現在のフィールドグラジオメータは、世界で最もポータブルな量子重力偏差計で、図3で示すようなトンネル表面下の欠陥検知のために開発されました
 
この装置は、土木工学分野における非破壊での地下マッピングに有用です。すでに英国では、the Innovate UK 助成のGravity Pioneerによって、産業分野への導入が進められています。
 
ナビゲーションなど応用分野の可能性を調査るため、バーミンガム大学では装置のさらなる小型化が試みられています。より小型のセンサヘッドを構築する方法の探求と、図4で示すようなドローンによる磁気光学トラップの試験が行われています。
 


図4:小型システム。ドローンの飛行中に冷却原子雲を生成します。

 
今後、よりコンパクトなスキームで、より高い感度を実現する、新しい技術の実現が図られます。
 
 

量子重力グラジオメータ関する追加情報


 
 

参考文献

 

グラジオメータチーム メンバー

Luuk Earl, Farzad Hayati, Sam Hedges, Andrew Lamb, Mehdi Langlois, David Sedlak, Ben Stray, Hester Thomas, Jamie Vovrosh, Jonathan Winch led by Kai Bongs and Michael Holynski.
 

研究チーム概要

Mehdi Langlois
Quantum Technology Hub Sensors and Timing
Midland Ultracold Atom Research Centre
School of Physics and Astronomy
University of Birmingham
m.langlois[at]bham.ac.uk
Cold atom Interferometry Group

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