コラム
2025/01/23
【Laser Being #3】小型化で産業革命!理研・南出リーダーが切り拓くテラヘルツ光源の未来と社会実装

(トップ画像は、ドローンによるセンシングや光技術の社会実装のイメージを、Adobe FireflyでAI生成したものです)
第三回の本コラムでご紹介するのは、テラヘルツ光の国内有数の研究開発拠点になっている理化学研究所光量子工学研究センターにおいて、小型・高輝度テラヘルツ光源やテラヘルツ波による高解像度センシング・イメージング技術の革新的な研究成果を数多く挙げられている同センターテラヘルツ光源研究チームの南出泰亜(みなみでひろあき)チームリーダーです。特に、最近ではテラヘルツ光源を手のひらサイズまで小型軽量化した実装モデルを試作開発され、このテラヘルツ光源&計測技術の様々な産業分野での実用化を推進されています。そこで、今回は以下のインタビューを行い、今後の研究活動や社会実装の展望を伺いました。

【テラヘルツ光源研究実験施設にて南出チームリーダー:2024年10月撮影】
― 研究開発の背景&経緯を教えて下さい。
光波と電波の中間の周波数帯域(100GHz〜10THzの周波数を持つ電磁波)のテラヘルツ光の特徴を活かした応用機器が社会実装されると、図1に示したような大変有益なイノベーションが起こると期待されています。 しかし、従来のテラヘルツ波発生装置は、テーブルトップサイズの大型パルスレーザーを励起光源とした光波長変換方式であり、且つ精密な光学調整が必要で、大型の据置型システムとなってしまいテラヘルツ光源は社会実装されずにいました。このため、小型軽量且つ堅牢なテラヘルツ光源の開発が待望されていました。

「テラヘルツ光源の小型・軽量化技術」においては、当研究チームが2016年に世界で初めて開発した「バックワード・テラヘルツ波パラメトリック発振原理」が、同光源開発のためのブレークスルー技術となっています。この発振原理は、非線形光学素子に近赤外の励起光とシード光を入射するだけで,高効率でテラヘルツ光が後方に発生するもので、外部共振器無しにパラメトリック発振が実現でき,テラヘルツ光源は大幅に小型化でき,かつ安定になりました。 更に、励起光源としてマイクロチップパルスレーザーを、非線形光学結晶として周期分極反転結晶を筐体内に配置することにより、図2に示したような当研究チームの研究成果として、手のひらサイズ(スマートフォンと同等サイズ)の小型軽量(453g)のテラヘルツ光源が開発できました。同装置のテラヘルツ波パルス幅は0.6nsecで、最大ピーク出力は15Wもあり、従来型の半導体テラヘルツ光源から出力されるmW級の平均出力と比較すると桁違いに強力なピーク出力が得られるようになりました。

出典:理化学研究所2024年9月6日プレスリリース「手のひらサイズの高輝度テラヘルツ波光源を開発-実用上の多様な非破壊検査対象に道筋-」
― 現在の研究活動の目的や今後の社会実装の展望を教えて下さい。
今回開発したテラヘルツ光源は、社会実装が容易に行える商品レベルまで徹底的に小型化、軽量化、堅牢化を意識した開発設計を、要素技術を開発したチーム全員で行いました。当研究チームは、研究者として技術開発成果だけで満足するだけでなく、同装置が社会に実装された現場で使用される方々に喜ばれる事を目的とした設計を行いました。
その結果、例えばドローンや自走式ロボットにも搭載することが可能となり、持ち運び出来る非破壊検査テラヘルツ波装置の実用化につながり、安心・安全な社会を実現するためのセンシング技術の一つとしてテラヘルツ波技術の社会実装に大きく貢献すると期待しています。
― インタビューを終えて
本インタビューにおいて、南出チームリーダーは社会実装を前提に基礎研究から商品化研究、またその先の応用研究まで一気通貫に行なわれていた事に感銘しました。今後も、テラヘルツ波研究開発チームが更に小型、高輝度、高感度のテラヘルツ光源や検出器を次々に開発され、益々テラヘルツ波技術の社会実装に大きく貢献する事を確信しました。
インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I