
(Adobe Firefly 生成による、インフラ分野でのレーザークリーニング適用イメージ)
第9回の本コラムでご紹介するのは、【橋梁、鉄塔、プラントなど老朽社会インフラのサビや塗膜を、レーザーで除去するレーザー施工技術の開発とその実装化により、国家的社会課題を解決する会社】として注目を集めている株式会社トヨコーです。
今回は、同社のHAMAMATSU BASEを訪問し、豊澤一晃(とよさわ かずあき)代表取締役CEO(以下豊澤社長)に、「老朽社会インフラのサビや塗膜除去用途に特化したレーザー光適用技術の研究開発を行い、その成果を実装したレーザー施工装置:CoolLaser(クーレーザー)の商品化と、昨年2025年3月東京グロース市場に上場するまでの経緯、今後の事業展望等についてお伺いしました。

目次
― 豊澤社長が「橋梁、鉄塔、プラントなど老朽社会インフラのサビや塗膜を除去するレーザー施工技術に挑戦」するに至った背景は何だったか教えて下さい。―
株式会社トヨコーは、1996年に私の父が創業しました。当初は塗装業を中心とする地域企業でした。転機は2006年、私が経営に本格参画し、徹底的に現場を回り、そこで目にしたのが、老朽化した工場屋根の深刻な問題でした。工場屋根を全面改修するには、生産ライン停止が必要となる。製造業にとってこれは大きな損失になります。更に、台風や豪雨など自然災害の増加で、屋根補修ニーズは年々高まっていました。
この課題に対し、既存屋根を活かしながら特殊樹脂で補強する「SOSEI(ソセイ)」製品を開発しました(図1&図2参照)。工場を止めずに施工できる点が評価され、事業は順調に成長軌道に乗りました。


SOSEI事業を拡大する一方で、私は次の社会課題に目を向けました。それが、日本全国で進行する社会インフラ構造物の深刻的な老朽化でした。
橋梁や鉄塔の補修現場では、サビ除去に砂や研削材(研磨材)を高速で吹き付けて、サビ・旧塗膜・汚れを除去する工法、所謂「ブラスト工法」が用いられていました。しかしこの工法は大量の粉塵と産業廃棄物を生み、作業者負担も大きいものでした。
「もっと安全で、環境負荷の少ない方法はないのか!」
その答えとして着目したのが、その当時産業界に普及が始まっていた金属表面にレーザー光を選択的に部分照射して、文字や図柄を瞬時に行うレーザーマーキング技術やレーザークリーニング技術でした。
このレーザー光照射技術を拡大・発展させ適用すれば、従来の「ブラスト工法」を代替する「安全で、環境負荷の少ないサビ・塗膜除去工法、すなわち【レーザー施工技術】が実現可能なのではないか?」と。
更に、私はレーザー施工技術により、作業現場の「3K(きつい・汚い・危険)を、3C(Cool・Clean・Creative)へ」変革できる、持続可能なインフラメンテナンス工法が実現できるのではないかという想いに至りました。
しかし、その当時の私に、「レーザーマーキングやレーザークリーニング技術」を「レーザー施工技術」に発展させる知識も技術もなく、また国内外の最先端の既存レーザークリーニング技術も研究段階に近く、社会インフラ向けレーザー施工に耐える高出力レーザー応用技術は存在していませんでした。
ここで一念発起!私がやってやる!【やらまいか!(浜松・浜名湖エリアの地域の方言で「やってみよう」「やってやろうじゃないか」という意味)】の精神で、レーザー施工技術に必要な基礎的な光学技術から高出力レーザー発生&応用技術について、基礎から最先端技術まで広く学ぶために、2008年、静岡県浜松市の光産業創成大学院大学に社会人入学しました。
そこで、現状の塗装業から着想したレーザーヘッド外観イメージと回転軌跡の着想を元に、光産業創成大学院大学の藤田和久教授らと共にレーザー光を高速回転照射する技術を具現化し、特許技術を開発しました(図3&図4参照)。この技術により、連続出力型の高出力レーザーを用いて、鋼材本体を傷めず、サビや塗膜のみを除去することが可能になり、従来のレーザークリーニングは出力不足が課題でしたが、本レーザー施工技術では連続波(CW)の高出力のファイバーレーザー装置が搭載可能となりました。現在では、5.4kW出力という世界トップクラスのファイバーレーザー搭載のCoolLaserを商品化できました。


― 昨年2025年3月東京グロース市場に上場されましたが、それまでの経緯はどの様なものだったのでしょうか?―
現在商品化しておりますCoolLaserの基本的な開発は、今から15年前の2010年頃から始めました。そのために、浜松研究所を開設し、レーザー施工装置自体の商品開発を行うと同時に、レーザービームの照射技術や施工方法の開発、更にレーザー施工を行う現場の安全対策なども体系化していきました(図5参照)。
同時に、単なる製品開発だけではなく、社会実装に向けた環境整備も進めました。一般社団法人レーザー施工研究会を立ち上げ、「レーザー照射処理に関する安全ガイドライン」の策定や、JIS規格「JIS Z 2358(レーザー照射処理面の除錆度測定方法)」の制定にも関与しました。また、レーザー照射処理施工士などの資格制度づくりにも取り組み、産業としての基盤形成を推進しました(図5参照)。
また、2018年以降はレーザー施工装置に搭載する高出力ファイバーレーザーの調達やレーザーヘッドの実装化研究には多額の研究資金と運転資金が必要となり、本格的な資金調達を開始し、2億円、7億円、14億円規模の資金を段階的に調達しながら開発を加速させていきました(図5参照)。

2023年には、CoolLaser初の市販モデル「G19-6000」シリーズを発表。翌2024年には納品を開始し、橋梁、鉄塔、プラントなどインフラメンテナンス分野で本格展開を始めました。
そして2025年、株式会社トヨコーは東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。塗装会社としてスタートした地方企業が、産学連携によって世界レベルのレーザー施工技術を実用化し、インフラ再生ベンチャーとして上場に至たることができました(図5参照)。
― 「CoolLaser」が狙うレーザー施工法の代表的な市場を教えて下さい。
当社は、「CoolLaser」が担うレーザー施工市場として、老朽化が進む橋梁、鉄塔、船舶、プラント等の社会インフラ向け大型鋼構造物のサビや塗膜を除去するメンテナンス市場を中核技術として位置付けています。
日本では高度経済成長期に整備された社会インフラ構造物の老朽化が進んでおり、橋梁や鉄塔などの維持補修需要が急増しています。当社の分析によれば、CoolLaserが対象とする国内市場規模は、2023年時点において装置販売ベースで800億円以上と推定しています。 主な対象市場は、道路橋約73万橋、鉄道橋約10万橋を抱える橋梁分野に加え、通信鉄塔約8万塔、送電鉄塔約24万基を持つ鉄塔分野です。さらに、船舶・ドックなど海事分野、エネルギー・化学プラント分野、石油備蓄タンクなど保管設備分野にも展開を進めています(図6&図7参照)。


―今後の事業計画を教えて下さい―
当社は今後、「業界軸」と「地域軸」の両軸で市場拡大を進める方針であります(図8参照)。業界軸では、通信鉄塔や送電線分野に加え、道路橋や鉄道橋など公共インフラ市場への本格参入を狙っています。そのため、高速道路会社、鉄道・電力分野での仕様化(スペックイン)に向け、施工方法の確立などを進めています。
地域軸では、建機レンタル会社や販売パートナーとの提携を拡大し、全国規模で装置配置を進めております。さらにIPOで調達した資金を活用し、生産拠点拡充や営業・保守体制強化を進める計画です。
また、現行機「G19-6000シリーズ」の応用開発に加え、次世代モデル開発にも着手します。海外市場への展開も重要戦略であり、視野に入れています。
今後は、SOSEI事業中心だった収益構造を、CoolLaser中心へ転換し、インフラ維持管理分野の新たな標準技術となることを目指しています(図9参照)。


― インタビューを終えて―
豊澤社長へのインタビューを通じて強く感じたのは、「現場発想」を徹底している経営者だということでした。CoolLaserも、最初から最先端技術を目指して生まれたのではなく、橋梁や鉄塔の補修現場で働く人たちの「困りごと」を解決したいという思いから始まっていた事からも推察できます。特に印象的だったのは、経営者でありながら自ら大学院へ入り、研究開発に挑戦した行動力です。
地方の塗装会社からスタートした企業が、産学連携によって世界レベルのレーザー施工技術を実用化し、上場に至った背景には、豊澤社長の粘り強さと社会課題への強い問題意識があったから成し得た事だと思いました。
今後、CoolLaserが日本国内だけでなくアジアから全世界のインフラ維持管理の常識を変えていく可能性を強く感じました。
インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I