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2025/08/12

【Laser Being #5】スマートアグリを牽引するRYODEN― 人工光合成で実現する次世代の農業DX

(Adobe Firefly 生成によるスマート植物工場イメージ)


第5回の本コラムでご紹介するのは、2017年に屋内栽培用LEDの開発で植物工場事業に参入し、2025年の現在では、閉鎖型人工光植物工場野菜の日本一の販売シェアを獲得するまでに事業を拡大された、株式会社RYODENグリーンシステム事業本部長の新田貴正執行役員です。特に、最近では、人工光植物工場の設計やノウハウを活かし、光合成生物を用いた新たな光合成エンジニアリング事業も立ち上げました。これにより、農産業分野にとどまらず、地球環境問題の解決にも取組む事業も展開しており、非常に注目を集めています。

そこで、今回は以下のインタビューを行い、人工光植物工場事業参入の背景から今後の事業活動や社会実装の展望を伺いました。

写真1:新田貴正執行役員@ブロックファーム植物工場内、2025年6月撮影

― 人工光植物工場事業参入の背景&拡大発展の経緯を教えて下さい。

日本の農業は少子高齢化や産業構造の変化により大きな転換期を迎えており、農家数は20年間で半減し、基幹的農業従事者の平均年齢も上昇しています。こうした背景から注目されているのが、天候や外部環境に左右されず安定供給が可能な植物工場です。RYODENは2017年に屋内栽培用LED照明の開発を皮切りに植物工場事業に参入し、コンテナ型植物工場や専用機器の開発、ファームシップとの業務提携を経て、累計100億円以上の受注を獲得しました。しかし電気代高騰や露地野菜との価格競争といった課題も存在していました。そこで当社は2022年、自社運営のブロックファーム植物工場を沼津に開設しました(図1,図2)。

図1:ブロックファーム植物工場外観@沼津(RYODEN様ご提供)

図2:ブロックファーム植物工場内部@沼津(RYODEN様ご提供)

敷地面積2万m2、延床面積8000m2のブロックファーム植物工場では徹底的に省エネルギー化を進めました。全量自家消費の太陽光発電を屋根に取り付け、消費電力の約20%を賄えるようにしました。植物工場はLED照明を使うことで熱を出し、それをエアコンで冷やすことになるため効率的ではなかったことから、新開発の熱還流環境制御アルゴリズムと、栽培手法との組み合わせにより大幅な省エネを実現しました。更に、各所に設置したセンサーによりエリアや栽培物に合わせて精緻な環境制御を図り、空調電力を最適化するなど、従来比で約50%の消費電力を削減しました。また、行政と連携して農地を活用することで地代も大きく抑制しました。

また、ブロックファーム植物工場では、新鮮なまま野菜をカットする設備も併設しており、付加価値の向上にも取り組んでいます。2023年には植物工場野菜の流通大手ファームシップを子会社化することにより、設備、システムから生産、販売、流通、ブランディングまで一元的に対応できる体制を整えました。更に、スマート化を進めたことで運用の改善も進み、多品種少量生産を実現し、常時13品種を栽培。毎日約2t(トン)、年間800tの野菜を出荷しています(図3参照)。また、AIを活用した需要予測なども取り入れ、2024年度は年間25億円の野菜を販売し、生産事業、販売事業ともに黒字化を達成しています。

図3:ブロックファーム植物工場で生産している野菜(RYODEN様ご提供)

―更なる人工光合成の効率改善にレーザー光照射は代替候補になりますか?

植物工場における照射光源は、技術進化とともにその形を大きく変えてきました。初期には蛍光灯や高圧ナトリウムランプが主流で、比較的安価で導入しやすい反面、光合成に必要な波長域を十分にカバーできず、エネルギー効率や温度管理にも課題がありました。その後、2000年代後半からはLEDが急速に普及し、必要な波長(主に赤や青)を効率よく照射できること、長寿命で省エネ性に優れることから植物工場の標準的な光源となりました。ただし、LEDでも指向性が十分ではなく、照射しなくても良い植物の葉以外の周辺部分にも広く照射してしまうなどの課題があります。さらに近年では、これらの課題を解決しつつ光利用効率を極限まで高める手段として、ご質問されたレーザー光源の活用が注目されています。その理由は、レーザー光源は工場施設の外部に設置し、レーザー光のみを光ファイバーで工場施設内部に伝送して、指向性の優れたレーザー光を植物の葉に狙い撃ち照射でき、しかもレーザー光源から発生する熱は工場内部には持ち込まないで済むので、非常に高い効率で光合成が可能になります。また、LEDに比べて必要な波長や光強度をより精密に制御できるため、植物成長効率や空間利用効率の更なる向上が期待されています(図4)。ただ、現時点ではそのメリットを活かせる程レーザー光源や伝送ファイバーのコストは安いものではなく、社会実装に至っていないのが実情です。ですから、これらレーザー光源等のコストの大幅な低価格化の進展を期待している所です。

図4:レーザー光照射による人工光合成植物工場のイメージ(ChatGPT4.0により生成)

― 今後のスマートアグリ事業の新規展開を教えて下さい。

スマートアグリ事業では今後、「光合成エンジニアリング事業」にも取り組んでいきたいと考えています。

従来、「光、水、空気を最適化することで成長の促進とエネルギーの最小化を図り、栽培者の収支を向上させることを考えてきました。その中で今、原料の生物由来のシフトがあり、藻類や微細藻類などの植物体成分抽出の話がかなり出てきています。植物工場で培った技術の7割以上は応用できるので事業化の障壁は低いと考えています(図5参照)。 2025年に入って複数の大企業と事業化に向けた話も進んで来ていて、「光合成エンジニアリング技術」を核として、革新的な新事業を展開してスマートアグリ分野のリーディングカンパニーを目指していく計画です。

図5:新事業の展開「光合成エンジニアリング」(RYODEN様ご提供)

― インタビューを終えて

本インタビューを通じて、新田貴正執行役員は、農業従事者の減少や高齢化、さらには近年深刻化する気候変動を背景に、将来的に人工光合成植物工場の需要が高まると見据え、社内技術を核に短期間で必要な人工光合成技術やノウハウを開発し、事業化・黒字化を実現した優れた起業家であると感じました。また、新田氏は、ブロックファーム合同会社(代表:丸山高志)を核にして、この植物工場事業にとどまらず、その技術を更に発展させ、農業分野だけでなく地球環境問題の解決にも貢献する新たな事業を展開しており、今後とも益々のご活躍に期待しています。

写真2:丸山高志ブロックファーム合同会社代表(左)、
新田貴正(株)RYODEN 執行役員(右)@ブロックファーム植物工場内、2025年6月撮影

インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I

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