コラム

2023/10/01

固体レーザーとは?その定義と歴史、特徴から応用例までを解説

1.固体レーザーとは

1-1.固体レーザーの定義

固体レーザー(solid-state laser)とは、その名の示す通り固体(人造宝石の結晶やガラス)を用いたレーザーです。

固体レーザーの基本構成は、母体(人造宝石)と活性原子及びレーザー共振器です。代表的な固体レーザーとは,、Ruby(ルビー)レーザーやYAG(ヤグ)レーザーであり、固体である母体の結晶(人造宝石)や、ガラスにNd(ネオジウムイオン)やYb(イットリビウムイオン)等の活性原子を添加した母体に、外部のLDやランプの励起源から光エネルギーを活性原子に注入し、光共振器を構成することでレーザー光を発振します。誘導放出の過程には種類があり、ルビーレーザーは3準位レーザー、YAGレーザーは4準位レーザーです。

母体の結晶(人造宝石)やガラスの種類としては、Nd:YAG(ネオジウム・ヤグ)Nd:YLF(ネオジウムイルフ), Nd:YVO4(イットリビウム・バナデート), Yb:YAG(イットリビウム・ヤグ) , Ti:Sapphire(チタンサファイア)等があります。ファイバレーザーや半導体レーザーも固体レーザーの一種であるといえますが、ここでの紹介からは除外しています。

1-2.固体レーザーの歴史:ルビーレーザーから現代の固体レーザーまで

レーザー(LASERはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation 頭文字)  は“放射の誘導放出による光増幅”という意味です。1960年代は様々なレーザーが発明された時代であり、最も有名な初期の固体レーザーは、米国ヒューズ研究所のセオドア・メイマンが、1960年5月に世界で初めて発明したルビーレーザーです。メイマンは、レーザー媒質にルビーを用いて、赤色(694.3nm)のパルスレーザー光の発振に成功しました。

1960年代になると、固体レーザーのルビーレーザー、ガラスレーザー、ヤグレーザー、半導体レーザー等が発明され、レーザーの開発競争の幕開けの時代となりました。固体レーザー以外では、気体レーザーのHe-Ne(ヘリウム・ネオン)レーザーやAr(アルゴン)イオンレーザー、CO2(炭酸ガス)レーザー、金属蒸気レーザー、窒素(N2)レーザー、He-Cdレーザー、色素レーザー等も相次いで登場した時代でもあります。

1970年代以降は、紫外領域への可能性を広げたエキシマレーザーや、固体レーザーもアレキサンドライトレーザー、YLFレーザー、YVO4レーザー、Glass(ガラス)レーザーといった多彩なレーザーが開発されました。また波長可変固体レーザーも世の中に登場し、波長アクセスがより多様化しました。

1980年代以降から現代にかけては、パルス半導体レーザー、チタンサファイア・レーザー等、さらに種類が増え、様々な分野で固体レーザーが活躍しています。なお前述の通り、半導体レーザーやファイバレーザーは分類上固体レーザーの一種ですが、ここでは触れておりません。

1-3.固体レーザーの特徴

固体レーザーは、小型でありながら、大出力を効率よく発振できますし、波長領域母体や励起源、および光共振器や増幅器の選択により、小出力から大出力まで、用途に応じたレーザー光が得られます。また高調波発生により、広い波長範囲にアクセスでき、多用途です。さらに、長寿命でメンテナンスが容易であるなど、稼働面でもメリットがあります。

比較の例として、気体媒質であるCO2(炭酸ガス)レーザーは、レーザー加工分野やレーザーメス等の医療分野で広く利用されていますが、固体レーザーに比べてサイズが大きく、ガスの消耗によるランニングコストも考慮が必要です。

固体レーザーの短所をあげるとすると、励起光源の高い光エネルギーによってもたらされる熱量の影響です。これをいかに低減し、より安定したレーザー発振が得られるかは、レーザー共振器の安定した温度管理にかかっています。すなわち、適切な冷却系(空冷・水冷)システムが必要です。

1-4.固体レーザーの励起方式

固体レーザーであるYAGレーザーは、3準位レーザーで、レーザー発振のための反転分布と誘導放出の過程が、基底状態と2つの励起状態で構成されます。励起源により母体に添加されたNdイオンの活性原子(発光原子)がポンピングされると、エネルギー的に安定な(ポテンシャルエネルギーが最も小さい)基底準位から、上位のエネルギーレベルへ遷移します。この際発光原子には、電子の反転分布が生じています。この電子は、上位から下位のエネルギー準位に遷移して光が誘導放出され、光共振器で増幅されてレーザー発振します。反転分布を起こさせるポンピングに必要な励起光として、LDやランプがありますが、固体レーザーの母体と添加物の種類等により、レーザー発振する波長(レーザーの色)が異なります。

連続波やパルス波、またレーザーの波長(色)等は、励起光源の波長帯域、強度、パルス回数、寿命によって決定されますので、励起光は非常に重要となります。レーザーの出力、波長(色)、発振形態等を決めるため、励起源をLDかランプから選択することになりますが、原則的にまず必要なレーザー仕様の確認が大切です。

続いて、LD励起とランプ励起について説明します。

LD励起は、母体の励起光源に半導体レーザー(LD:レーザーダイオード)を使用します。母体の活性原子(発光原子)に吸収されやすい波長をもつ励起光源を使用することで、効率良くレーザー発振ができます。例えば、YAGレーザーの発振波長(1.064μm)の励起源には、一般的に波長 700nm-800nm付近の半導体レーザーが使われます。半導体レーザー励起の場合、活性原子(発光原子)への光エネルギー照射・注入による発熱量が低く出力の安定性・高繰り返し・高出力が実現し易いメリットがあります。

ランプ励起とは、母体の励起光源として、パルス発振用ではフラッシュランプ、連続発振用ではアークランプを使用します。ランプ励起の場合には、熱量の発生が大きくなることに注意が必要です。またパルス発振では、高い繰り返し周波数での発振は、より難しくなります。

2.固体レーザーの例と応用

この章では、さまざまな固体(solid-state)レーザーの各特徴や応用例を紹介します。

2-1.Rubyレーザー(ルビーレーザー)

ルビーレーザーは、赤色(694.3nm)のパルス波です。母体はピンク色のロッドで、励起源は主にヘリカル・フラッシュランプが用いられます。産業分野での主な用途はホログラフィ、医療分野では痣、シミの除去等に利用されています。

2.2. Nd:YAG(ヤグ)レーザー

Nd:YAGレーザーは、波長1.064μmの近赤外光です。連続波、パルス波の両発振が可能で、集光性や安定性に優れています。また、高調波(532nm, 355nm, 266nm)の発振もでき、非常に多用途です。例えば産業分野では、さまざまな金属・非金属の溶接・切断・穴あけ・ライダー・クリーニング・ピーニングなどに使用されています。理科学分野では、チタンサファイア・レーザーのポンピング、非線形光学、ライダーなど、医療分野ではレーザーメス、光凝固、外科手術等、広く利用されています。

2.3. Ho:YAG(ホロミウムヤグ)レーザー

Ho:YAGレーザーは、主にパルス発振で、波長2.06μmです。歯科用の止血・凝固・蒸散・切開等に用いられます。

他の固体レーザーにも共通していますが小型、軽量で使い易すく、誰でも使用できる簡便さを備えた研究開発・産業の両用途に適したレーザーです。

2-4. Nd:Glass(ガラス)レーザー

Nd:Glassレーザーの活性材料の母体は、結晶ではなくガラス(バリウムクラウンガラス・リン酸ガラス等)です。高出力のため、レーザー核融合炉の研究等の分野で活用されています。

2-5. Nd:YVO4(イットリビウム・バナデート)レーザー

Nd:YVO4レーザーは、波長1.064μm、LD励起で非常に高い発振効率が得られるレーザーの一つです。レーザーマーキング、金属、非金属の微細加工等に利用されています。

2-6. Yb:YAG(イットリビウム・ヤグ)レーザー

Yb:YAGレーザーは、発熱率が低く、高効率なレーザー発振が特徴で、高出力が得られやすいレーザーの一つです。

2-7. Ti:Sapphire(チタンサファイア)レーザー

Ti:Sapphireレーザーは、ピコ秒(ps)、フェムト秒(fs)、アト秒(as)といった超短パルス幅のレーザー発振が可能です。また、波長範囲が広く、中心波長を800nmとして、赤色から近赤外(650nm-1100nm)を出力でき、波長可変レーザーとしても知られています。

励起源として、Nd;YAG, Nd:YLF, Nd:YVO4等の高調波を使用するシステムです。

短パルス幅と広い波長範囲の特徴により、さまざまな理科学研究で活躍しています。

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