コラム

2023/06/30

レーザーの波長とは?波長帯の種類や各レーザー波長の応用例などを解説

レーザーの波長とは?波長帯の種類や各レーザー波長の応用例などを解説

レーザーは、その特性から工業や医療、通信など多岐にわたる分野で利用されています。しかし、レーザーの基本的な特徴である波長については、普段あまり意識されていないかもしれません。

本記事では、レーザーにおける波長とは何か、その波長帯の種類について解説します。また、レーザーの波長によってどのような用途で活用・応用されているかについても紹介いたします。レーザーに関心がある方や、レーザーの応用に興味がある方は、是非お読みいただければ幸いです。

1.波長の定義

まずは、光の波長の基礎知識について、ご説明いたします。

1)波長とは?

光は私たちが日常的に接する自然現象の一つであり、様々な要素により性質が異なっています。光は波の性質と粒子の性質を兼ね備えており、色の違いは光の波の長さ(波長)が異なることによって生じます。

波長とは波の1周期の長さで、一般的にナノメートル(nm)で表されます。周波数は1秒間の波の数であり、ヘルツ(Hz)で表します。

一般的に、光の色は「波長」で表されることが多いのですが、光が用いられる分野によっては「周波数」が用いられることも少なくありません。波長をλ(m)、光の速度をc(m/s)、周波数をf(Hz)とすると、以下の関係が成り立ちます。

波長 λ(m)=c(m/s)÷f(Hz)

可視光線と呼ばれる光の波長は、おおよそ380nmから780nmの範囲のもので、目に見える光です。それ以外の波長の光には、「赤外線・紫外線・X線・γ線(ガンマ線)」などがありますが、これらは目には見えない光となります。

2)光子エネルギーと波長

光子エネルギーは、光の粒子が持つエネルギーのことを指します。このエネルギーは波長によって決まり、波長が短いほどエネルギーが大きくなります。光子エネルギー(E)と波長(λ)との関係は、プランク定数(h)と光の速度(c)によって影響を受け、E=hνという式で表されます。さらに波長を周波数(ν)で置き換え、E=hc/λ という式でも表されます。(周波数は光の振動数とも呼ばれます。)

光子エネルギー E=hν=hc/λ   ※プランク定数(h)、光の振動数(ν:ニュー)、光の速度(c)、波長(λ:ラムダ)

この式からわかるように、波長が大きくなるにつれ、光子エネルギーは小さくなります。一方、波長が小さくなるにつれて、光子エネルギーは大きくなるということです。このように、光の波長が変化することで、光子エネルギーは変化するのです。

例えば、紫外線は波長が短く、赤外線は波長が長いため、それぞれのエネルギーも異なります。このように波長によって光子のエネルギーが異なるという点は、光学、通信、医療などあらゆる科学技術において考慮すべき重要な事柄です。

2.光の波長帯の種類

光の波長は電波よりも短く、以下のような種類が挙げられます。

低エネルギー                            高エネルギー

(波長が長い=周波数が低い)              (波長が短い=周波数が高い)

電波赤外線 (IR)可視光 (VIS)紫外線 (UV)X線γ線
長波・短波・マイクロ波など

※可視光だけ目で見える(おおよそ380nmから780nm)

1)電波

電波は電磁波スペクトルの中で最も波長の長い帯域です。空間をゆっくりと伝播し、様々な情報を伝達できます。そのため、電波はラジオやテレビ放送、通信などで主に利用されています。

2)赤外線(IR)

赤外線は、波長780nm~10,000nm領域の光です。波長が長い方から、遠赤外線(far IR)、中赤外線(MIR, mid-IR)、近赤外線(NIR)にさらに領域が分類されることもあります。人間の目では見ることはできませんが、壁などの障害物を通過できるため、赤外線カメラなどで観測できます。このような性質から赤外線は、家庭用リモコンや赤外線通信などにも利用されています。

さらに赤外域は、物質の検査測定や同定に非常に有用な領域です。物質の光の透過・吸収の様子は波長によって異なり、「分光」によって物質の性質などが解明できます。赤外分光には多彩な手法が開発されており、あらゆる検査・測定用途で重要な役割を担っています。

3)可視光(VIS)

可視光線はその名の通り、私たちの目が感知できる光で、色彩を認識するために非常に重要な役割を果たしています。範囲は380nm付近から800nm前後です。可視光線は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫といった異なる色で視認されます。

これらの色は、波長によって決定され、紫が最も短く、赤が最も長い波長を持っています。可視光線は、照明や太陽光からも発せられています。これらの光は多様な波長の可視光線を含むため、全体として色を認識できません。このようにさまざまな可視光を含む光を「白色光」といいます。

4)紫外線(UV)

紫外線は、光の波長帯の一つで、可視光線よりも波長の短い10~400 nm範囲の光です。そのため、紫外線は、強いエネルギーを持っており、その特性を利用して殺菌や化学反応などに応用されています。また紫外光は集光性が高く、半導体産業をはじめとするレーザー微細加工で非常に有用で、将来のレーザー加工では新たな活用も期待される領域です。

紫外線も波長の長さよって、長い方から近紫外(near UV)、真空紫外(VUV)、極端紫外(EUV)に分類されるほか、健康や環境への影響を考慮したUVA, UVB, UVCといった分類や、産業用途で特に注目される深紫外(DUV)という領域もあります。

5)X線(エックス線)

X線は、0.001nmから10nmの電磁波で、放射線の一種です。物質に入射すると「散乱」「吸収」「透過」などの現象を起こしますが、それらの現象を利用して、様々な分析装置に用いられています。例えば、医療分野では骨折や身体内部の病変などを診断するために利用され、材料科学分野ではX線回折を用いた物質の結晶構造解析が行われており、高度な解析が可能です。

6)γ線(ガンマ線)

γ線は、X線よりさらに短い波長の放射線です。非常に高いエネルギーを持っているため、人体に深刻な影響をおよぼす可能性があります。細胞内のDNAを破壊し放射線障害やがんの原因となる可能性がありますが、医療分野での診断や治療にも利用されており、がん治療においては、がん細胞を破壊するために用いられています。

X線やγ線といった放射線では、電磁波のエネルギーは、波長(nm)よりも電子ボルト(eV)で表記されます。

3.波長帯によるレーザーの種類

レーザーは、発する光によって様々な波長帯に分類されます。代表的な波長帯は、赤外線、可視光線、紫外線、X線です。それぞれの波長帯のレーザーについて解説します。

1)赤外線レーザーの特徴

赤外線レーザーは、低コストながら高出力が可能なレーザーが多くなっています。高い入力電力を必要としない高効率化が図りやすく、様々な分野で活用されています。レーザー媒体によっては、小型化や軽量化も容易です。赤外線レーザーには、半導体レーザー、ファイバーレーザー、固体レーザー(Nd:YAG, Nd:YLF等)、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)など、レーザー媒質の異なる多様な種類があります。それぞれが異なる特性を持っているため、目的に合わせて適切な種類を選択することが重要です。

2) 可視光レーザーの特徴

可視光レーザーは、波長が380〜780ナノメートル (nm)の間にあり、人間の目に見える光を出します。この波長帯は、人間が視認できる光であるため、バーコードリーダーやレーザーポインターといった多くの日常的な分野で応用・利用されています。可視光レーザーには、半導体レーザーをはじめ、HeNe(ヘリウムネオン)レーザー、YAGやYLFなど赤外の固体レーザーを周波数変換したレーザー、ルビーレーザー、色素レーザーなどがあります。中でも半導体レーザーは、多彩な波長を出力することができ、より広い分野での応用が期待できます。前述の日常的な用途以外にも、顕微鏡から植物工場まで様々な照明用途や、プロジェクタやディスプレイなど、産業分野でもますます活用が進んでいます。

3)紫外線レーザーの特徴

紫外線レーザーは、極めて短い波長を持つレーザー光であり、非常に高い光子エネルギーが得られます。また集光性が高く、微小ビームを作りやすいため、微細な加工に適しています。

紫外線レーザーを用いると、反射率や透過率の高い物質にも、効果的に光を吸収させて、加工することが可能です。素材に対して吸収率が非常に高いため、過剰な出力で光照射する必要がなく、熱による素材のダメージを押さえることができます。こういった熱的損傷を与えない印字やマーキング加工は、「コールドマーキング(cold marking)」と呼ばれます。非熱プロセスなので、熱による材料の変形や変質がなく、品質の良いマーキングができます。

紫外線レーザーには、周波数変換した固体レーザー(YAGやYLFの3倍波、4倍波など)、一部の色素レーザー、気体エキシマレーザー、窒素レーザー、半導体レーザーなどの種類があります。このうち固体レーザーやエキシマレーザーは高出力で、半導体をはじめする産業分野に多く導入されています。

4)X線レーザーの特徴

X線レーザーは、従来の物質中での発光現象を利用するのではなく、電子を高エネルギー加速器の中で制御して、その光を利用する方式が取られています。他のレーザーと比較して発振の原理が複雑であるため、高度な技術を必要とし、開発コストが高くなります。

X線レーザーは、最先端の技術を駆使した光源として、今後も様々な分野での応用が期待されています。ただし、その高度な技術を活用するためには、設置場所や操作方法などには細心の注意が必要です。

4.各波長帯レーザーの応用例

ここでは、各波長帯レーザーの応用例についてご紹介します。

1)赤外線レーザーの応用例

赤外線レーザーは、多岐にわたる用途があることが知られています。まず、加工においては、非常に高出力の炭酸ガスレーザーやファイバーレーザーで、様々な材料を高速で切断・溶解できます。例えば、金属の溶接、電子部品の実装、プラスチックの切断などに利用されます。

また、医療分野では、レーザーが照射された部分を治療する「レーザー治療」という方法があり、その中でも赤外線レーザーは生体組織に対する熱傷のリスクが低いため、赤外光を出力する炭酸ガスレーザーや固体レーザーが、皮膚疾患の治療や歯科治療に広く利用されています。

さらに通信では、半導体レーザーをはじめとする赤外線レーザーを送信機・受信機を通して使用することで、データを送受信することができ、無線通信よりも高速・安定した通信が可能になります。計測分野では、赤外線レーザーを用いた測定器があり、例えば非接触温度計やガス濃度計などがあります。レーザー光を利用することで、微量なサンプルでも高い精度で正確に測定できます。

これらのように、赤外線レーザーは、加工・医療・通信・計測など、あらゆる分野で有効に活用されています。

2) 可視光レーザーの応用例

可視光レーザーは、バーコードリーダーやレーザーポインター、エンターテインメントのための照明など、様々な分野で活用されています。しかし、近年ではさらに多様な応用分野が模索されています。

例えば、産業用途においては、高速かつ精密な3Dプリンティングによる試作や、金属表面の微細な切削や溶接に利用されています。また、医療分野でも、矯正手術や眼科手術に使用されるほか、がん治療にも応用が拡大されています。

セキュリティ分野においては、指紋認証などのバイオメトリクス技術の向上にも貢献しています。さらに、LEDに対比して明るさが求められる液晶テレビや、大型プロジェクタの光源として、可視光レーザーが注目を集めています。

このように、可視光レーザーの応用範囲はますます広がっており、技術の進歩に伴って新たな可能性が模索されています。

3) 紫外線レーザーの応用例

紫外線レーザーは、その特性が活かされ、様々な分野で活用されています。例えば、半導体製造においては、レーザーアブレーションにより微細なパターンを形成できます。また、医療分野では、細胞の切断や凝固に用いられます。

UVレーザーは、エッチング技術にも利用されます。この技術は、高密度な回路を実現するために活用でき、半導体や液晶などのディスプレイ製造にも必要不可欠な役割を果たしています。拡大するデジタル時代において求められる、エレクトロニクス製造のさらなる高速化、高集積化に、レーザー技術が今後も大きく貢献していくことでしょう。

4) X線レーザーの応用例

X線レーザーは、その波長の短さやエネルギーの高さを活かし、様々な分野での応用が期待されています。すでに医療分野ではX線レーザーを用いた撮影技術で、非常に高い空間解析力での内部組織の観察が可能になっています。

現在では、X線レーザーを用いた人工核融合技術の研究が進められています。燃料に高エネルギーのレーザー光を照射して微小なプラズマを生成し、そのプラズマ内で核融合反応を起こす研究がされています。将来的にはクリーンエネルギーの供給源としての利用が期待されています。

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