
(Adobe Firefly生成による、高出力チップスケールレーザーの広い応用分野イメージ)
「テーブルトップサイズの高出力固体レーザー装置と同等の性能を有する、超小型チップスケールのレーザーを開発できないか?」
SCALE photonics株式会社 代表取締役社長CEOの鎌田将尚(かまた まさなお)氏(写真1参照)は、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社で研究開発に携わっていた時代に、この技術課題を解決するために、半導体レーザー材料と固体レーザー材料を単一チップ上に集積する新たなレーザー技術の開発に取り組んだ。その研究成果として、わずか約1 mm3のチップから最大57 kW@450psecという高いピーク出力を得るチップスケールレーザーの開発に成功した(写真2参照)。

この成果を基盤として、鎌田氏は2026年4月にSCALE photonics株式会社を設立。現在、この「高出力チップスケールレーザー」の実用化・事業化を進めている。

従来の高出力レーザー装置を大幅に小型化し、指先に乗るほどの超小型レーザーから高いピーク出力を取り出せるようになれば、レーザー装置そのものの姿だけでなく、その使い方や応用分野にも大きな変化をもたらす可能性がある。
この革新的なレーザー技術は、どのような発想から生まれ、どのような原理によって実現されたのか。そして今後、どのような市場への展開を目指しているのか。技術開発の経緯から今後の事業戦略まで、鎌田将尚社長に詳しく伺った。
鎌田社長の【指先にも乗るほどの超小型チップスケールレーザー】の開発動機は何だったのですか?
「小型で量産性に優れる半導体レーザーは高出力化に限界があり、一方、高出力を実現できる固体レーザーは小型化が難しく、コストも高い!」という事実は、レーザーの世界では、いわば長年の常識ともいえるジレンマがありました。この相反する課題を解決できれば、レーザーシステムの大幅な小型化と低コスト化が可能となり、これまでレーザーを導入することが難しかった分野にも、新たな用途が広がるのではないか。そんな思いから、この技術の開発に取り組みました。(図1参照)。

【指先にも乗るほどの超小型チップスケールレーザー】はどのような技術で実現されたのですか?
その技術は、半導体レーザーだけを強くすることだけではなく、面発光半導体レーザー(VECSEL)を励起源にし、エネルギーを蓄えられるYb:YAG固体レーザーと、短いパルスを作るCr:YAGをチップ上で組み合わせる構成(図2参照)を開発した事です。励起光を共振器内で利用することで、外付けの集光レンズや精密な位置合わせを減らし、薄い結晶を使った集積を可能にしました(図3参照)。厳密には「チップサイズの半導体レーザー」というより、半導体レーザーと固体を一体化したチップサイズの【半導体レーザー励起固体レーザー】です。



【チップスケールレーザー】の商品モデルの形態と性能は?
1 mm2 × 0.65 mmの微小レーザーチップは、駆動・放熱・保護・光取り出しができる実用的なTO-can金属パッケージに実装し、市場に供給しています(図4参照)。

また、開発した発振波長1030 nmレーザーでは、パルスエネルギー30 µJ、パルス幅450 ps、繰り返し周波数1.8 kHzを実現し、ピーク出力は最大57 kWに達しています。平均出力は300 mWを超えています(図5〜7参照)。特に注目すべきは、約1 mm³という極めて小さなチップから、数十kWという高いピーク出力を取り出している点です。
一般的な半導体レーザーは、電気から直接光へ変換でき、小型・低コストで量産性にも優れる反面、単一デバイスで高いピーク出力と良好なビーム品質を同時に得ることには制約がありました。一方、Qスイッチ固体レーザーなどでは高ピーク出力と優れたビーム品質を実現できるものの、励起用半導体レーザーや集光光学系、レーザー結晶、共振器などを組み合わせる必要があり、装置の大型化や高コスト化につながっていました。
ここで開発したチップスケールレーザーは、この両者の間にあった壁を越えたレーザーで、半導体レーザー材料と固体レーザー材料をチップレベルで集積することで、従来は複数の光学部品で構成していた高ピーク出力レーザーを、半導体デバイスに近いサイズまで小型化したレーザーを実現した事です。
さらに、添付のビームプロファイルが示すように(図6、図7参照)、出射光はほぼ理想的なガウシアンビームとなっており、近視野でのビーム径は約100 µmです。単に「小さくて高出力」というだけでなく、集光性に優れた高品質なレーザービームが得られることも大きな特徴です。



つまり、このレーザーは、「半導体レーザーの小型・量産性」と「固体レーザーの高ピーク出力・高ビーム品質」を融合した新しいレーザー光源と位置付けることができると考えています。現在、安定した量産化技術も開発しているので、従来はレーザー装置の大きさやコストが障壁となっていたセンシング、LiDAR、精密加工、医療・バイオなど幅広い分野への応用拡大が期待されています(図8参照)。

参考までに、このチップスケールレーザーを用いた微細加工の事例を図9に示した。

インタビューを終えて
今回、鎌田社長のお話を伺って最も印象に残ったのは、「高出力レーザーは大きく、高価なもの」という、これまでの常識そのものを変えようとしていることであった。
半導体レーザーの小型・量産性と、固体レーザーの高ピーク出力・高ビーム品質。この二つの長所を一つのチップに融合し、指先に乗るほどの大きさから数十kWものピーク出力を取り出す。その技術を目の前にすると、これは単なるレーザー装置の小型化ではなく、「レーザーをどこで、どのように使うのか」という発想そのものを変える技術なのではないかと感じた。
そして、もう一つ印象的だったのが鎌田社長の姿勢である。ソニーで生まれた研究成果を論文だけで終わらせるのではなく、自ら会社を立ち上げ、製品として世の中に送り出そうとしている。研究者から起業家へ――その挑戦の根底には、「この技術を社会で使われるものにしたい」という強い思いが感じられた。
社名の「SCALE photonics」には、レーザーをチップスケールまで小さくするという意味だけでなく、そこから技術を社会へ、そして世界へとスケールアップさせていく、そんな意思も込められているように思える。
「大きなレーザーを、小さくする」。
しかし、その小さなチップが切り拓く未来の世界は大きい。
SCALE photonicsが生み出したこの小さなレーザーが、これからどのような場所で光を放ち、新しいレーザー応用の扉を開いていくのか。今後の展開を楽しみに見守りたい。
インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I
関連リンク
SCALE photonics株式会社 ホームページ https://scalephotonics.com/