
(Adobe Firefly生成による、量子ドット構造の社会実装イメージ)
第10回の本コラムでご紹介するのは、【量子ドットというナノメートルサイズの半導体構造を活用し、温度安定性や省電力性に優れた半導体レーザーを実用化することで、次世代の光通信、シリコンフォトニクス、光電融合技術の発展を支える会社】として注目を集めている【株式会社QDレーザ】です。
今回は、同社を訪問し、「量子ドットレーザーの技術的な特徴と従来型半導体レーザーに対する優位性、理論提唱から長年にわたる研究開発を経て量産化に至るまでの歩み、さらには生成AI時代のデータセンターやシリコンフォトニクス、光電融合分野において期待される役割と、今後の事業展望」などについてお伺いしました。
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QDレーザ本社にて撮影-300x225.jpg)
大久保社長(写真 左)は、【QDレーザ】設立当時から深く関わって来たとお聞きましたが、具体的にはどのような関与をしてこられたのですか?
私は、2004年頃、三井物産のベンチャーキャピタル部門で先端技術ベンチャーへの投資を担当していました。東京大学を通じて富士通研究所から「世界に先駆けて研究開発された【量子ドットレーザー技術】を社会へ送り出したい」という相談を受けたことが、【QDレーザ】との出会いでした。
そこから約2年間にわたり、創業者である菅原充氏、当時三井物産グループのベンチャー投資会社社長であった長尾氏とともに、会社の事業構想や資本政策、技術ライセンス契約などについて議論を重ねました。その結果、2006年4月、富士通と三井物産の支援を受け、日本発の【量子ドットレーザー技術】を事業化するベンチャー企業として【株式会社QDレーザ】が誕生しました。
私は、当時「投資担当」という立場を超え、【QDレーザ】創業そのものを設計したメンバーの一人であり、創業時には取締役副社長として経営にも携わりました。その後、約20年を経て再び経営の第一線に立ち、2025年6月に代表取締役社長へ就任した背景には、創業時から変わらない「世界に通用する量子ドットレーザーを社会実装したい」という強い思いがあったからです。
【QDレーザ】が事業化された【Quantum Dot(QD:量子ドット)レーザー】の特徴を教えて下さい
半導体レーザーは、活性層に注入された電子と正孔が再結合して発生した光を共振器内で増幅することでレーザー発振を得ています(図1参照)。初期にはバルク半導体が用いられていましたが、その後、活性層を数nmまで薄くした量子井戸(Quantum Well:QW)構造が実用化され、発振効率や高速変調特性が大幅に向上しました。
但し、量子井戸構造では、キャリアを厚さ方向のみに閉じ込めるのに対し、温度上昇によりキャリアが高い準位へ移動したり活性層から漏れたりするため、閾値電流が増加し、発光効率が低下するという特性があります。
一方、【量子ドット(Quantum Dot:QD)レーザー】では、電子と正孔をナノメートルサイズの微小な半導体結晶内に三次元的に閉じ込める構造(図2参照)をしていますので、三次元的な強い閉じ込め効果によりキャリアの漏れが抑制され、温度変化に対して安定した発振特性を維持できます(図3参照)。
このため、【量子ドットレーザー】は、低閾値、低消費電力、高温動作、優れた温度安定性、狭いスペクトル幅などの特長を有しています。この優れた量子ドット構造は、1982年に東京大学の荒川泰彦教授と榊裕之教授によって理論的に提唱されていました。
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レーザー】と【量子ドット(QD)レーザー】の構造比較(ChatGPT-Plusにより作成).jpg)

QD-FP Laser【量子ドットレーザー】
Conventional FP Laser A「従来型量子井戸レーザー」
Conventional FP Laser B「従来型量子井戸レーザー」
の温度別レーザー出力–駆動電流特性を並べて比較)
【量子ドット(QD)レーザー】実用化までの製造技術開発で、最も苦心された点は? また、貴社の特徴は?
【量子ドットレーザー】の原理が提唱された当時から、その優位性は明確でした。しかし、実用化までには長い時間を要しました。最大の課題は、ナノメートルサイズの量子ドットを、高密度かつ均一に形成する技術でした。半導体レーザーの活性層として使用するには、一つの素子内に数百万個規模の量子ドットを形成しなければならない。しかも、それぞれのドットの大きさや組成にばらつきがあると、発光波長や利得特性が広がり、レーザーとしての性能が低下します。
【QDレーザ】では、GaAs基板上にInAsを結晶成長させる際の格子不整合を利用した自己組織化量子ドット形成技術をベースに、独自のMBE結晶成長技術と成長条件の最適化、高密度・高均一形成技術を組み合わせることで、世界に先駆けて【量子ドットレーザー】の量産化する事に成功しました(図4参照)。

生成AI時代に、貴社の【量子ドットレーザー】の役割が、益々増加していると聞きましたが、その理由は?
生成AI(Generative AI)の急速な普及により、世界中で大規模データセンターの建設が相次いでいます。AIサーバーではGPUやAIアクセラレータが膨大なデータを高速にやり取りする必要があり、従来の電気配線では通信速度や消費電力の限界が顕在化しています。そのため現在、データセンター内部の通信は銅配線から光配線へ急速に置き換わりつつあり、この変化は「光電融合(Co-Packaged Optics:CPO)」や「シリコンフォトニクス」の実用化を大きく加速させています。
その中で重要な役割を担うのが、光信号を発生させる半導体レーザー光源です。
従来広く用いられてきた「量子井戸レーザー」では、高温環境では閾値電流が増加し、発振効率が低下するため、高速通信モジュールではペルチェ素子などによる温度制御が必要となります。一方、【QDレーザ】が開発した【量子ドットレーザー】は、前述しましたように、三次元的に電子を閉じ込める離散エネルギー準位を有することから、100℃以上でも特性劣化が小さく、専用設計では200℃でのレーザー発振動作も可能な半導体レーザー光源となります。
この優れた対環境温度特性は、データセンターにおいて大きなメリットとなります。その理由は、現在のAIデータセンターでは、冷却設備が施設全体の消費電力の30〜40%近くを占めるともいわれており、【量子ドットレーザー】のような高温動作が可能になれば、データーセンター設置の冷却装置の小型化や消費電力の削減につながり、運用コストやCO₂排出量の低減にも大きく貢献できる事になります。
また、半導体レーザーから出射した光の一部が外部の光学部品や導波路端面で反射し、レーザー共振器内に戻ると、発振状態が不安定になることがあるので、一般的な光通信モジュールでは、戻り光を遮断するために光アイソレーターが使われます。この光アイソレーターは磁性材料などを用いるため、シリコンフォトニクス回路との一体化が難しいだけでなく、部品コストや実装面積も増加するという欠点があります。しかし、【量子ドットレーザー】では、そのキャリアダイナミクスと利得特性により、従来の「量子井戸レーザー」に比べ、戻り光の影響を受けにくいため、光アイソレーターを使用しない「アイソレーターレス光源」を実現できるメリットもあります。
以上述べたように、【QDレーザ】は、【量子ドットレーザー】の優れた「高温動作性」と「反射耐性」を強みに、生成AI時代のデータセンターを支えるシリコンフォトニクスや光電融合分野において、次世代半導体レーザー光源のリーディングカンパニーとして、その存在感を一層高めて行きたいと考えています(図5参照)。


今後の事業展望は?
【QDレーザ】はこれまで、
- レーザーアイウェア
- 網膜投影ディスプレイ
- 視覚支援機器
- 半導体レーザー製品
などを中心に事業を展開して来ました(図6参照)。

一方で、前述しましたように今後は、AIデータセンターやシリコンフォトニクス向け光源という巨大市場への参入が、新たな成長ドライバーとなる可能性があります。
生成AIの普及に伴い、世界では今後もデータセンターへの投資が継続すると見込まれており、その中核を支える光通信技術への需要は今後10年以上にわたり拡大すると予想されています(図7参照)。

【QDレーザ】が長年培ってきた量子ドット結晶成長技術と高品質レーザー製造技術は、こうした市場ニーズに合致しており、医療・福祉分野で培った技術基盤を維持しながら、情報通信分野へ事業領域を拡大することで、事業ポートフォリオの多角化と拡大を推進して行く所存であります。
インタビューを終えて
今回、お話を伺い、【量子ドットレーザー】が長い研究開発期間を経て、いよいよ本格的な社会実装の段階へ入りつつあることを強く感じました。
1982年に日本で理論提唱された【量子ドットレーザー】は、自己組織化量子ドットの発見、結晶成長技術の進歩、デバイス設計と量産技術の確立を経て、現在ではシリコンフォトニクスや光電融合を支える実用光源へと発展している。
優れた技術が市場で広く使われるためには、性能だけでなく、品質、歩留まり、信頼性、供給能力、コストのすべてを満たす必要がある。【QDレーザ】が挑戦してきたのは、【量子ドットレーザー】という先端科学を、実際に顧客が使用できる製品へ変換する仕事であったと言える。
生成AI時代を迎え、データ処理能力の向上と消費電力削減を両立することが世界的な課題となっている。その解決策の一つとして、電気配線から光配線への転換が進めば、【量子ドットレーザー】の役割は一層重要になるだろう。 日本で生まれ、日本企業によって量産化された【量子ドットレーザー】が、世界の情報通信と光電融合技術を支える基盤デバイスへ成長することを期待したい。
インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I
関連リンク
株式会社QDレーザホームページ https://www.qdlaser.com