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2025/10/06

【Laser Being #6】「リスクを取らないことが最大のリスク」― オキサイド創業者・古川保典氏が語る“光マテリアル×レーザ”の挑戦

(Adobe Firefly 生成による光学単結晶の社会実装イメージ)


第6回の本コラムでご紹介するのは、東証グロース上場の(株)オキサイド[6521]の創業者で、現在同社代表取締役会長CEO(工学博士)の古川 保典(ふるかわ やすのり)氏です。同社は、光学単結晶・光部品・レーザ光源を核に、半導体、ヘルスケア、新領域の3事業を展開する“光マテリアル×レーザ”のグローバルニッチ・トップ企業です。本社は山梨県北杜市、2000年に古川保典氏が創業。国研の研究成果を社会実装する目的で企業化し、波長変換用などの高機能単結晶の育成・加工と、それを用いた深紫外(DUV)レーザで強みを築き、継続的に拡大発展している企業です。

そこで、今回は古川氏に以下のインタビューを行い、起業の背景から今後の事業活動や社会実装の展望について伺いました。

古川保典 (株)オキサイド代表取締役会長CEO @同社工場内、
2025年7月撮影
写真1:古川保典 (株)オキサイド代表取締役会長CEO @同社工場内、
2025年7月撮影

― 大学〜企業〜国研へと研究の場を移りながら、最後にはその成果をもとに企業化されたとのことですが、その経緯を教えて下さい。

私は、1983年3月に筑波大学大学院理工学研究科修士課程を修了し、同年4月に日立金属株式会社(現・プロテリアル)へ入社しました。入社後は、大学院時代に行なっていた研究成果を生かし、光学用酸化物単結晶の研究・開発に従事し、特にMgO添加ニオブ酸リチウム(MgO:LiNbO₃)の結晶成長と光学特性の改良に取り組みました。1992年にはスタンフォード大学応用物理研究所に客員研究員として派遣され、非線形光学結晶分野の国際的な研究交流も経験しました。1996年4月には無機材質研究所(現・国立研究開発法人 物質・材料研究機構〈NIMS〉)に転じ、高品質な光学単結晶の育成や欠陥制御など、基礎から応用までの研究を推進しました。

研究者として活動する中で「研究成果を社会に還元したい」との想いを強め、2000年10月に国家公務員兼業制度を利用してオキサイドを設立しました。当初は兼業の立場でしたが、「リスクを取らないことが最大のリスクである」という私の信条から、2003年10月にはNIMSを退職し、経営に専念することを決意しました。以後オキサイドの技術主導型経営を牽引し、お陰様で2021年4月には、東京証券取引所マザーズ市場(現:グロース市場へ移行)に上場することが出来ました。

― オキサイドのコア技術と事業構成を教えて下さい。

当社は、創業以来「研究成果を社会に還元し、キーマテリアルを世界に向けて発信する」、「顧客へマテリアルソリューションを提供し、社会の発展に貢献する」、「単結晶を核とした製品を開発し、未来の市場機会を創造し続ける」という3つの理念を掲げ、社会に新たな価値を提供することを目指して事業を展開しております。

当社の事業の根幹を支える2つのコア技術についてご説明します(図1参照)。まず単結晶育成技術は、特定の結晶構造を持つ材料を高精度かつ再現性高く作り出す技術です。次に、波長変換技術は、レーザの光が単結晶を通過する際に、その光の波長を変える技術です。これにより、目的に合わせてレーザ光を特定の波長に変換し、より高精度な検査や加工が可能になります。

これらのコア技術を活用し、幅広い波長領域に対応した製品を開発・製造しています。また、当社の事業構成は、半導体事業、ヘルスケア事業、新領域事業の3つで構成されています(図2参照)。

図1:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図1:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋



図2:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図2:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋

― 半導体事業分野にはどのような製品がありますか?

当社の単結晶とレーザは、半導体製造工程の前工程で、ウエハ表面の欠陥を検出する装置に使われています。当社の製品は、単結晶と、この結晶を組み込んだレーザです。このレーザが、当社の顧客である検査装置メーカーの装置に搭載されています。TSMC、Intel、サムスンなど世界有数の半導体メーカーで当社製品が稼働しており、高い信頼を得ています(図3参照)。


図3:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図3:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋



当社の深紫外レーザ製品は、長寿命と高い安定性が評価されており、これによりシリコンウエハの微細な検査を効率的に行うことが可能となっています。半導体の微細化に伴い需要拡大が見込まれる深紫外レーザ用波長変換単結晶は、ウエハ検査で使われる266nmの波長で、世界シェアが約95%という実績を誇っています。当社のレーザ製品は、非常に出力の高い深紫外レーザを発していることから、使用中に一部のパーツにダメージを与えるため、数年に一度メンテナンスをする必要がございます。

当社製品のメンテナンスは、当社にしかできませんので、この販売後の定期的なメンテナンスは今後も安定した収益源になると考えています。

現在、当社のレーザ製品は世界市場で約30%のシェアを持っていますが、さらに深紫外レーザの開発を進め、次世代の半導体製造プロセスに対応することで、シェアの拡大を目指しています(図4参照)。


図4:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図4:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋

― ヘルスケア事業分野にはどのような製品がありますか?

ヘルスケア事業では、がんの診断用PET装置に搭載されるシンチレータ単結晶を製造・販売しています。PET装置は、体内の病変を見つけるために、体内に投与された薬剤が出すわずかな放射線を検出して画像化する装置であり、当社の技術は、がんの早期発見や認知症の診断といった医療技術を支えています。

現在、当社製品の世界シェアは約20%です。当社のシンチレータ単結晶の競合優位性としましては、高性能・高品質なシンチレータ素子でPET装置の高解像度化に貢献していること、世界最大サイズの単結晶インゴットを量産していること、そして日本製で地政学リスクが低いことと考えております(図5参照)。


図5:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図5:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋

― 新領域事業分野にはどのような製品がありますか?

新領域事業では、国内外の光計測機器や光学製品メーカー、大学などの研究機関向けに、単結晶や光部品、レーザ光源、光学測定装置の開発・製造・販売を行っています。

事業ドメインでは、宇宙・防衛、先端光計測、データセンターなど幅広くございます。当社は、その中でも、特に量子技術やパワー半導体といった次世代技術に注力しています。これらの分野はまだ市場の形成途中ですが、当社の技術には大きな可能性があると考えています(図6参照)。



図6:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図6:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋

― 今後の新領域の事業計画を教えて下さい。

当社が注力しているパワー半導体SiCと量子技術についてご説明いたします。当社では、従来の方法である昇華法とは異なる『溶液法』という結晶育成方法に取り組んでいます。この溶液法は、欠陥が非常に少なく高品質な結晶を育成できるという特長があります。当社が狙う領域は、社会インフラやエネルギー用途の超高耐圧の領域です。EVなどに代表される中耐圧領域と比較して、高信頼性・長期安定性が求められる市場であり、高品質な溶液法SiCウエハが期待されています(図7参照)。


図7:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図7:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋



続いて量子分野についてご説明いたします。量子技術は、「量子コンピュータ」、「量子暗号通信」、「量子センシング」の3つの領域に分類されています。当社は、波長変換素子や量子光源モジュール、レーザ光源の提供を通じて、これら3つの領域すべての研究開発に貢献しています(図8参照)。



図8:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋
図8:株式会社オキサイド個人投資家向け会社説明会資料(2025年8月7日実施)より抜粋

― インタビューを終えて

本取材を終えて強く印象に残ったのは、「リスクを取らないことが最大のリスク」という古川氏の一言でした。研究者として磨いた結晶技術を、社会実装へ押し出す胆力。非線形結晶から深紫外レーザ、PET用シンチレータまで“素材×光源×応用”を一気通貫で束ね、第4工場の拡張で供給力を社会実装へと接続する。北杜の地から世界の最先端へ!日本のフォトニクスが進むべき道筋を、静かな確信とともに示していた。その技術をさらに発展させ、今後とも益々のご活躍に期待しています。

インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I

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