
(トップ画像は、データ駆動型レーザー加工のイメージを、Adobe FireflyでAI生成したものです)
第4回の本コラムでご紹介するのは、(国研)産業技術総合研究所において、超短パルスレーザーを用いたレーザー表面微細加工の高品位化技術の先端的な研究成果を数多く挙げられている奈良崎愛子副研究部門長(製造基盤技術研究部門 (兼)レーザー加工フロンティア研究グループ長)です。特に、最近では「ICTデータ駆動型レーザー加工」の研究開発に注力され、世界に先駆けて同技術を用いたレーザー表面微細加工の高品位化技術を開発され、学術界だけでなく産業界からも非常に注目されています。
そこで、今回は以下のインタビューを行い、今後の研究活動や社会実装の展望を伺いました。

研究開発の背景&経緯を教えて下さい。
レーザー加工の産業実装には,プロセス条件の高速最適化技術開発が重要です。国内外で,レーザー溶接等のマクロ加工を中心にインプロセスモニタリングや機械学習などのAI技術の研究開発が進められています。しかし,超短パルスレーザーを利用した微細加工は,より微小領域の高速現象であり,プロセスモニタリングやAI開発は未だ挑戦的な課題でした。
そこで私どもは,超短パルスレーザー加工をターゲットに,加工条件の高速最適化技術の開発を目指し,ICT データ活用型アクティブ制御レーザー加工技術開発(図 1)に取り組んでいます。本技術では,加工のリアルタイムモニタリングから得られる ICT データをベースとした高速制御や,AI によるパラメーター高速最適化により,レーザー加工のダイナミクスを自在に制御できるアクティブ制御レーザー加工の実現を目指しています。

現在までに、産業ニーズの高いガラスを対象に,アクティブ制御レーザー加工のための超短パルスレーザーの高速強度変調技術と加工応用,またフェムト秒レーザー照射による微細ナノ構造形成をインプロセスで光検出できる技術を新たに開発しています。最新のリアルタイムモニタリング技術開発例として、東京農工大学の宮地悟代先生との共同研究で開発しましたガラス表面へのナノ周期構造形成のインプロセスモニタリング技術がありますのでここでご紹介します。
金属や絶縁体等の固体表面に複数のフェムト秒レーザーパルスを集光照射すると,レーザー波長よりも小さい周期を有するナノ構造(Laser-Induced Periodic Surface Structure:LIPSS)が形成できます。LIPSS は超親水・撥水や反射防止といった表面機能付与が自由曲面に可能なため,産業応用が期待されています。
しかし,LIPSS 形成は,レーザーエネルギー,ビーム査速度といったレーザー加工パラメータに加え,材料表面状態にも依存して形成有無や構造周期が変化するため,ナノ周期構造の安定形成は非常に困難な加工となっていました。そこで加工部位をインプロセスモニタリングし,加工中にアクティブ制御するレーザー加工技術が有効と考え,東京農工大学の宮地悟代先生との共同研究でモニタリング技術開発を行いました。ナノ構造の直接観察には一般的にはSEM 観察が多用されますが、本研究では LIPSS 形成部分の無反射特性を利用すれば,加工部位の反射率減少,透過率増加を測定する光学的手法により,サブ波長サイズのナノ構造形成を観測できると考え、開発を行いました。

本研究で実際に開発したインプロセスモニタリング技術により、LIPSSナノ構造形成時にのみ,反射率減少と透過率上昇が確認され、加工中に発生するクラックや表面のナノ周期構造を高精度に検出可能となり、データベースに基づくリアルタイムフィードバックを行う事により、LIPSSナノ構造の安定形成が実現できるようになりました。この研究成果は、2025年1月米国サンフランシスコで開催された世界最大級の光産業展示会・国際会議であるSPIE Photonics WEST 2025において、LASE Plenary&Hot TopicsでのHot Topic講演として多くの聴衆に成果を届ける機会を頂きました。
現在の研究活動の目的や今後の社会実装の展望を教えて下さい。
ICTデータ活用型アクティブ制御レーザー加工技術は、レーザー加工における複雑なパラメータを迅速かつ最適に制御するため、インプロセスモニタリング、機械学習、高速レーザー制御技術を組み合わせています。従来、レーザー加工のパラメータ最適化は技術者の経験と勘に依存していましたが、データ駆動型アプローチにより、省人化と産業競争力の強化が期待されています。レーザー加工および計測手法の開発を通じて、エレクトロニクス、製造、医療、バイオ、環境などの主要産業分野に新たな価値を提供する事を目指しています。
インタビューを終えて
本インタビューにおいて、奈良崎研究グループ長は、レーザー加工技術の社会実装を目的に研究活動を行いながら、所内外の研究グループの組織運営や学会活動も積極的に行われており、『ともに挑む。つぎを創る』という現代の産総研ビジョンを基本理念として活動・実践されている研究者だと感じました。
関連情報
国立研究開発法人産業技術総合研究所 2025年3月24日研究成果記事
「ガラスの機能を高めるナノ周期構造を高効率に形成-データ駆動型レーザー加工によって欠損率の低いナノ構造を実現-」(産総研サイトへ移動します)

インタビュー&文責:株式会社日本レーザー営業本部マーケティング部H&I