蛍光式光ファイバ温度センシング・テクニカルノート

光ファイバ温度センサは、高周波・高電圧環境下で正確な温度計測を実現します。このページでは、Photon Control 光ファイバ温度センサの技術や他の方式との比較をご紹介します。
光ファイバ温度センサは、熱電対など従来の電気式センサでは性能を発揮できない過酷な環境で役立ちます。温度異常による不利益を避けるため、温度監視は製造や検査など多くの分野に欠かせません。しかし、電磁干渉(EMI)、高周波干渉(RFI)、高電圧、放射線などの厳しい環境では、熱電対やサーミスタなどの温度センサでは不十分です。蛍光式ファイバ温度計は、精度、分解能、耐久性を犠牲にすることなく、代替となるソリューションを提供します。難しいアプリケーションに理想的な、正確で信頼性の高い温度センシングを提供する技術として、蛍光式温度計の詳細をご紹介します。
背景
光ファイバセンサ

図1 光ファイバセンサシステム
光ファイバ技術の革新は、光源やケーブリングの進歩だけでなく、センサの発展にもつながっています。光ファイバセンサは完全に光で制御され、電気部品を含みません。一般的に、光ファイバセンサは光を使い、測定される物理量に応じて光信号の特性を変化させま
す。インタロゲータは、受信した光信号をアナログまたはデジタル形式の電気信号に変換し、制御装置へのインターフェースとして機能します。現在、温度、ひずみ、位置、速度、角度、振動、音などのセンサが実現され、市販されています。
温度センサ
今日、熱電対、サーミスタ、放射温度計、蛍光式温度計など、多種多様な温度センサの選択肢があります。熱電対やサーミスタなどの電気式温度計は、正確な温度検出が可能ですが、金属製のリード線や部品を使用するため、電磁干渉(EMI)や高磁場、高電圧などの環境下には不向きです。一方、放射温度計は、赤外線エネルギから温度を測定する非接触センサです。放射温度計の欠点は、周囲のエネルギを拾うと不正確な測定値となることです。蛍光式センサは、物質の発光特性を利用して温度を測定します。発光は温度に依存するため、蛍光式センサは光ファイバ温度センシングに最適です。
光ファイバセンサが選ばれる理由
光ファイバセンサは、電子式のセンサに置き換わるものではありません。電気式センサでは測定困難なアプリケーションに、新しいソリューションを提供します。光ファイバセンサは、電気式センサには無い、下記のメリットを提供します。
光ファイバセンサ(プローブとケーブル)には、電気部品が使われていません。このためEMI、高電圧、雷、放射線の影響を受けません。電気的に絶縁されているため、光ファイバは本質的に安全に使用でき、たとえプローブやケーブルが破損しても、火花や過熱の危険性がありません。強磁場の影響を受けないだけでなく、非鉄および非導電性の材料を使用して製造されることで、MRIのボア内に設置することも可能です。これらの特徴により、システムのノイズを大幅に低減し、電気式センサと比較して、より正確な測定と高い信頼性を提供します。
光ファイバセンサはさらなるメリットを提供します。例えば、超小型センサープローブ(直径0.5mm)は、省スペースが重視される用途に使用できます。また、光ファイバケーブルは、銅線ケーブルと比較して、より広帯域、高速、長距離の通信が可能です。
銅線による伝送は火花を発生させ、ショートや火災を引き起こす可能性があります。光ファイバを用いることで、電気火災の可能性が排除され、安全性が向上します。
光ファイバセンサは、医療、防衛、オイル&ガス、インフラ、電力、通信といった産業向けに広く使用されています。
蛍光式温度計の技術説明
蛍光式温度測定とは?
光ファイバ温度センサは、温度に敏感な材料をセンサとして使用し、光を用いて温度情報を伝達します。温度が変化するとセンサの特性が変化し、透過、反射、蛍光、吸収などの光に基づく反応が起こります。その結果得られた光信号は、光ファイバを介して伝播し、光電子検出システムはその信号を温度読み取り値に変換します。

図2 蛍光体の原子が青色光で励起され、緩和時に赤色光を放出
蛍光式温度計は、蛍光体を光ファイバや光信号の線上にある物体に塗布します。測定時には光パルスを用いて励起します。図2に示すように、蛍光体は基底状態(1)から始まります。光子によって電子が励起されると、原子内のエネルギーレベルが高くなります(2)。
その後、電子は緩和して元の状態に戻る際、蛍光体は蛍光に似た発光の一種である燐光状態を経て、低強度の光を放出します(3)。この場合、青色光によって励起され、赤色光を放出します。

図3 蛍光体の発光
蛍光式温度計は、蛍光体を光ファイバや光信号の線上にある物体に塗布します。測定時には光パルスを用いて励起します。図3に示すように、蛍光体は基底状態(1)から始まります。光子によって電子が励起されると、原子内のエネルギーレベルが高くなります(2)。
その後、電子は緩和して元の状態に戻る際、蛍光体は蛍光に似た発光の一種である燐光状態を経て、低強度の光を放出します(3)。この場合、青色光によって励起され、赤色光を放出します。
温度測定方法

図4 蛍光体の蛍光寿命と温度の関係
上述のように、蛍光寿命は温度に依存します。以下の式1によれば、強度は指数関数的に減衰します:
I=I0 e-t/τ (式1)
ここで、I0は初期発光強度、tは時間、τは蛍光寿命、すなわち初期発光強度の1/e に減少するまでの時間です。
プローブの校正では、既知の温度での光強度の減衰を測定することで、理論モデル(式1)を用いて蛍光寿命を計算することができます。蛍光寿命は温度の上昇とともに減少しますが、その割合は蛍光体の材料によって異なります。これに加えて、それぞれの蛍光体は限られた温度範囲しかカバーしないため、広い温度範囲を測定するには複数の蛍光体が必要になります。図4は、それぞれの蛍光体の温度範囲と蛍光寿命を示しています。

図5 18.3℃(65°F) と 23.8℃(75°F)における蛍光の減衰 (La2O2S:Eu)
特定の蛍光体の蛍光寿命スペクトルがわかれば、それを温度センサとして使用することができます。図5は、18.3℃(65°F) と 23.8℃(75°F) における蛍光体 La2O2S:Eu の発光強度を示しています。温度が高くなると蛍光寿命が短くなる(光強度の減衰が速くなる)ことがわかります。このモデルを用いた温度の誤差は理想的には1%以下です。
温度計システム

図6 温度計システム略図
図6は、温度測定システムの詳細を示しています。コンバータ内の青色発光ダイオード(LED)を光源として使用します。青色光は光ファイバケーブルを伝播してプローブ先端の蛍光体を励起します。温度に応じて放出された赤色光(蛍光)は、光ファイバケーブルを伝
播してコンバータに戻り、光検出器に入ります。光検出器で赤色光のエネルギが対応する電気信号に変換され、電気信号の減衰時間から、プローブの先端の絶対温度を求めます。
プローブタイプ

図7 プローブタイプ
アプリケーションに合わせて、イマージョン(浸漬)型、コンタクト(接触)型、リモート型の3つのタイプからプローブを選択できます。イマージョン(浸漬)型プローブは、プローブの先端にセンシング部を持つ最も汎用的なセンサーです。温度測定対象(媒体)に挿入するか、表面に機械的に固定して測定します。イマージョン(浸漬)型プローブの利点は、液体、粉末、ゲル、食品、組織などの軟質媒体サンプルへの挿入が容易であることです。
一方、コンタクト(接触)式プローブは、表面への機械的および熱的な結合を最適化するためにバネ機構を使用しています。物体平面、工具、プレートの表面温度をモニタリングするために、固定、もしくはロボットを使用してプロービングできる場合には特に効果的です。バネ機構を採用することで、静的に固定される場合、動的な振動がある場合のいずれのアプリケーションでも使用できるという利点があります。
リモート型プローブは、測定対象の表面に直接接触せずにプロービングできます。熱感知マテリアル(蛍光体)は測温対象の表面に直接、もしくはその近くに取り付けられ、光ファイバは2~20mm離れた距離に配置されます。
光ファイバ式温度計は、従来のセンサが不得意としているアプリケーションにソリューションを提供しています。以下、新しいセンシングを可能にする例を3つ紹介します。
半導体製造装置

プラズマエッチングチャンバにおける温度センシング
半導体製造装置は、歩留まり向上とコスト削減のために、エッチング中のウェハ温度を正確に制御する必要があります。さらに、温度センサはRF(高周波)やプラズマ環境に影響を受けてはいけません。
現在、FluoTemp™ 蛍光温度計ソリューションとして、お客様の装置向けに専用設計のバネ式コンタクト(接触)プローブを開発し、最高450℃までの温度測定範囲と±0.5℃までの絶対精度を実現しています。
医療 – MRI

医療 MRI 環境
MRIボア内では最大9テスラ(T)までの強磁場となるため、患者の皮膚温度、周囲環境温度、およびMRI ハードウェアのモニタリングが困難な場合があります。また、ターゲットとなる磁性ナノ粒子が発するナノ磁場をタグ付けしてセンシングし、がんを検出するイメージング技術が登場しています。
NY2 FluoTemp™イマージョン(浸漬)型プローブは、磁場に対する免疫と不可視性(透明性)を兼ね備えた非金属設計で、理想的なソリューションとなります。
電力 – ブスバー監視

ブスバーのモニタリングの為に取り付けられたプローブ
大電流の配電にはブスバーが使用されています。非常に高い電圧(最大1500V)となるため、安全な温度監視が困難な場合があります。
光ファイバ式温度センサを各ブスバーにカップリングすることで、電圧スパイクの影響を受けずホットスポットを早期に検出できます。
Photon Contorolおよびグループ会社のMicronorでは、さまざまなアプリケーションに対応する蛍光式温度計を提供しています。
蛍光式センサプローブ
標準モデル | C150 | C250 | NY2 | HT1 |
---|---|---|---|---|
プローブタイプ | コンタクト(接触) | コンタクト(接触) | イマージョン(浸漬) | イマージョン(浸漬) |
温度範囲 | -40°C ~ +150°C | -40°C ~ +250°C | -20°C ~ +80°C | -40°C ~ +200°C |
精度 | ± 0.5°C | ± 1.0°C | ± 0.5°C | ± 1.0°C |
ケーブル最小曲げ半径 | 25 mm | 20 mm | 10 mm | 20 mm |
注:C250とHT1センサは開発中です。2021年半ばにリリース予定です。記載されている仕様は暫定的なもので、変更される可能性があります。
MC5 マルチチャネルコンバータ
マルチチャンネル温度コンバータは、すべての蛍光式センサプローブと互換性があり、温度監視アプリケーションに業界最高水準の精度、再現性、信頼性を提供します。5つの測定チャンネルまで構成可能で、測定ポイントごとのコスト削減と省スペース化を実現します。

モデル | MC5 |
---|---|
チャンネル数 | 1 – 5 |
通信プロトコル | Modbus® RTU, アナログ または EtherCAT® |
デジタルインターフェース | RS-485 |
アナログ出力 | 4 – 20 mA (16-bit DAC) |
測定範囲 | プローブの仕様参照 |
測定精度 | プローブの仕様参照 |
安定性 (2σ) | ± 0.1°C |
分解能 | 0.01°C |
動作環境温度 | 5°C ~ 60°C |
入力電圧 | 24 VDC |
寸法 | 141 mm H x 25 mm W x 100 mm D |
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